文化祭の余波 1

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「お前というやつは……まいろ(毎度)まいろ(毎度)……。  言わせてもらうが……」  赤ら顔の知己の目が座っている気がする。 「お前は、俺が好きなのか? それとも女の俺が好きなのか?」 (女の俺?)  将之はツッコミ損ねた。  将之は、知己がラノさんのことを素直に吐かないだろうとワインを勧めた。予定通りに真実を語らせるのには成功したが、副産物があった。  知己はガタリと勢いよく立ち上がると、向かいに座る将之に詰め寄る。 「()っちが好きなん()ー?」 (しまった!)  今日はことのほか寒かったので、将之はカシミアセーターの下にハイネックのインナーを着ていた。  酔っぱらった知己は、そんなものに構いやしない。 「こんなものれ、俺の攻撃を防げると思うなー!」  と意味不明な言葉を吐きながら、襟首をつかんだかと思ったら、そのままがばりと将之の首元に顔を埋める。薄手のインナーの上からかまわず、ちゅうぅぅぅーと吸い付いた。 (インナー、脱いどきゃ良かった……)  残念がる将之に第二波が押し寄せる。 「あ、ちょ、待って。このセーター、この間買ったばかりの高……!」  将之が言い終わらぬ前に、のしかかる体勢の知己が襟首掴んだまま上にひっぱりあげた。  セーターを伸ばされたくない将之は、急いで知己に合わせて立ち上がった。 「てぇい!」  上手投げのスタイルで、知己が将之をソファに投げ飛ばした。  正しくはセーターを伸ばされたくない将之が、知己の動きに合わせてソファに投げ飛ばされた風に動いた。 「待って! セーター、脱ぐから!」  だが、無駄だった。  酔っぱらった副産物に現れた「オクトパス知己」の前に、セーターは風前の灯。「うりゃぁ!」と引っ張ると、首元や鎖骨にちゅうちゅうと楽しそうに知己が唇を押し付けた。 (セーターも脱いどきゃ良かった……)  だが、セーターもインナーも脱いで上半身裸でおでんを食べるのは、なかなか滑稽な姿だ。  将之は、知己のちゅーちゅー攻撃に遭いつつも、 (今度、色違いのセーターを買おう)  と、にやけながらオクトパス知己の背中にぎゅうっと手を回すことにした。
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