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文化祭の余波 2
「わー、将之! なんで起こしてくれなかったー?」
朝起きて、知己は驚いた。
いつも出勤する時間に、目が覚めたからだ。
「起こしたけど、起きなかったんですよ」
将之は一人、朝食後のコーヒーを優雅に飲んでいる。
「あ。コーヒー、飲みます?」
と訊かれ
「コーヒーだけ飲んで、仕事行く!」
バタバタと洗面所に駆け込み、顔を洗うとコーヒーを飲みに知己はリビングに舞い戻ってきた。
「朝ごはんは?」
「コンビニに寄って、おにぎりでも買って食う」
流し込むようにコーヒーを飲みたいところだが、さすがにそれは熱くて無理だった。
「そういうと思って」
将之はラップで包んだおにぎりを、テーブルの上に二個、そっと差し出した。
「1個は梅干しで、もう一個は鮭ほぐしですよ」
「マジ、有難い!」
知己は心底
(将之が、気がつく同居人で良かった)
と感謝した。
ふと、そこで
(ん? なんだろう、あのラベンダー色の毛糸の塊は……)
ソファの下に落ちていたセーターっぽい何かが目に入った。
「昨日、お前、何かしただろ?」
大体、想像はつく。
知己は全裸で布団にくるまっていた。
「大したことはしていませんよ。僕の上にのしかかる先輩に応戦しただけです」
「なんだ? それは」
知己は、カバンに昨日持って帰ったものを確認し、そのまま詰めて出かける準備をする。
期末考査問題文作成用に重たい資料を持ち帰ったのに、何もしないでまた持って行くことになるとは……。重たいカバンの往復。これでは、ただの筋トレだ。
「ぶっちゃけ何かしたのは、先輩の方です。僕は何かされた方」
「……え?」
さーっと血の気が引く。
「もしかして、また……? 俺、将之に酷い目を遭わせた?」
これまでも何回かヤらかしたことがあると、記憶にはないが、家永や将之から話を聞いて自覚はあった。
どうやら知己は酒乱で、深酒してしまうと同席する者を襲ってしまうらしい。
「ええ。今も何個か痕が残っていますが……。見ますか?」
そっと鎖骨の辺り……昨日の痕らしき所を将之は擦った。
「いや、時間ないから見ない。その……昨日はごめん」
「いいんですよ。でも、僕以外にはこんなこと絶対にしないでくださいね」
にこやかに、だが確実に知己に罪悪感を埋め込みながら
(間違っても家永さんやクロードに、あんなことしないでくださいね)
と将之が釘を刺す。
「ああ、すまない。絶対に他の人とは飲まない」
ショボショボになりつつ、知己は仕事着に着替えた。
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