文化祭の余波 2

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「ところで先輩、今日は何時ごろにお帰りで?」 「ん? なんで?」 「時間に合わせて、温めておきます」 「何を?」  昨日、持ち帰った仕事を何も手をつけずに持って行く虚しさと、将之を襲った気まずさに、寝坊した以上に気持ちは落ち込んでいる。 「先輩、知らないんですか? おでんは、二日目が美味しいんですよ」 「将之ー! なんてことをー!」  知己は頭を抱えた。 「出汁の沁み沁み大根、玉子にこんにゃくの誘惑に、先輩は抗えますか? 今日は日本酒を用意しておこうかな」 「うわー! なんでだー!?」  魅惑ワードの羅列に知己は泣きそうになる。 「今日も仕事、終わんねーよ!」 「ふふふ……」 「なんで、そんなに邪魔すんだー!?」 「なぜなら、オクトパシーな先輩が好きだからです」 「意味分かんねー!」  残念ながら、知己には深酒した時の記憶がない。  だから将之の狙いなど、分かるはずもない。  ただ、分かるのは今日も家に持ち帰っての仕事はできないだろうということだ。 (これは、絶対に学校で仕事を終わらせるしかないな……)  できないことはない。  理科室を生徒出禁にして、そこでやってしまえばいいのだ。  事実、職員室も今現在期末考査前なので「生徒出禁」にしている。  知己も職員室で仕事をすればいいのだが、そうすると特別教室棟に章達だけが入りびたる恐ろしい事態が起こる。  「理科室出禁」というだけでは、章達のこと。知己が見張っていないと、おそらく口先だけで本当に帰りはしまい。 (章達に文句を山ほど言われるだろうけど)  章達にテスト勉強させるためにも、理科室出禁にして、理科室で知己が仕事をするのが最善だと思われた。
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