4月はもう目の前 1

2/3
238人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
(俺のどこを気に入ったんだか……)  大人嫌いの教師嫌いで、成績は全国4位とすこぶる優秀だったが、とにかく手の付けられない問題児。頭脳明晰さを無駄に生かし、教師の言動に難癖付けるクレーマーとしても高い国語力を発揮していた。そんな男が生徒という立場を利用してやりたい放題の言いたい放題。他の教師達はいずれも手を焼いていた。だが、知己には懐いていて、そこまで悪態つくことはなかった。  まさか恋愛対象に見られていたとは、思っていなかったが。 (そう思っているのは、平野だけ)  と思いながら家永は、注文したピスタチオムースのケーキフィルムを、器用にフォークでくるくると巻いて外した。  平野知己は眉目秀麗のいわゆる美形に属する。妙に艶っぽい雰囲気もあるが、そんな外見以上に、情が厚くて面倒見が良い。そんなところに門脇は惹かれたのだろう。そして、それは現在の知己の恋人・中位将之も然り。同僚のクロード=井上然り。  不幸にも知己の意中の人・坪根卿子にだけは通じない知己の良さだった。 (まあ、俺もだけどな)  家永ももれなく知己に恋するメンツの仲間だったが、いかんせん、この男は鈍い。自分の恋心を全く気付いてもらえず、分かってもらった時には既に遅く中位将之のモノになっていた。これまた色々あったが、今では「親友」という立場が居心地よくなっているから始末に負えない。  そんな門脇大喜びの恋愛イベント目白押しだった2月に、同居人兼恋人の中位将之とも、思わぬ勘違いから4カ月近く会わないし会えないといういざこざの収束。やっと二人の家に戻ることができたのも、2月のことである。  生徒の進路にヤキモキしつつ、同時進行で門脇・将之そして勘違いの原因となった同僚・クロードとのやり取り。  これは、かなり精神的に堪えた。  2月の第三土曜に胃がキリキリと痛んで、そっと撫でていたのを家永晃一は見逃していなかった。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!