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文化祭の余波 3
(不本意な約束を取り付けられたが、まあ、いいか)
知己はポジティブにそう考えるようにした。
文化祭以来避けられていた俊也の件も(いいか悪いかは別にして)何とかなりそうだし、その上三人の赤点回避に章一位返り咲きの特典付きだ。担任としてこれほど嬉しいことはない。
しかも期末考査の期間、彼らは理科室に来ないという。
理科室でのおひとり様時間をこよなく愛している知己は、まさにホクホクだった。
一人で黙々とする作業は捗り、知己は気になっていた期末考査の問題作成までも終えることができた。
職員室に戻ると、クロードがまだ居たので
「また、あの時のドレスを借りれないか?」
と頼んでみた。
「おや? 女装に目覚めましたか?」
「いや、そうじゃなく。俊也の件で借りたい」
「俊也君……?」
クロードが唇に拳を当てて、考え込むような素振りをした。
「もしかして……『ラノさん』……ですか?」
「クロード……? 何か知っているのか?」
「え……あ、そうですね。知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知らないんですけど……」
(咄嗟に嘘ついちゃったの……、実は私なんですよね)
正直には言えなくて、クロードは
「もしかして、彼の為の女装なんですか?」
と質問で誤魔化した。
「うん。まあ、そう。もう一度会って、きちんとケリつけたいらしい」
知己は章達の言っていたことを聞いたまんま、クロードに伝えた。
「知己とは毎日会っているじゃないですか?」
確かに担任なので、物理的には知己とHRで毎日会っている。
「そこは複雑な男心なんだって」
それも章達の言葉の受け売りだ。
「はあ、まあ、そういうことなら……。私にも責任の一端はある気がするので、ご協力します」
「すまんな。助かる」
期末考査の問題とパッド4枚重ねの掟破りドレスの準備もでき、知己は帰路に着いた。
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