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「あ、おちょこ。カラになってますよ」
と言っては、また将之が酒を注ぐ。
(絶対に何かあるな……)
日頃、章達に鍛えられているおかげか、危険察知能力が上がっている。
しかし不審に思いつつも、将之が自分に対してベッド以外で酷い目に遭わせるとも思えない。それと仕事があがった解放感に、勧められるままに、飲んでしまって既に酔い始めていた。そして、アルコール度は昨日のワインよりも高い。
結果、昨日よりも速いペースで、知己はオクトパス化し始めた。
「一体、何を企んでいるんら?」
コトンと軽い音を立ててテーブルにおちょこを置く。
「企んでなんかいませんよ」
と言いつつ、知己の呂律が回らなくなっているのを見計らい将之が、「実はですね……」と語り始めた。
「昨日の写真をくれた部下がですね
『お知り合いでしたか?』
と聞くんです。それで
『知り合いだったよ』
と答えたら、どうしてもラノさんと会わせてほしいってことになりまして」
プライベートだし、知己の気持ちもある。将之が決める訳にはいかない。
何度も断ったが、彼女も食い下がった。
後藤にはくれなかった写真を送ってもらった手前、将之もむげに断ることもできなくて、今に至る。
「ラノさんに会う事、できないかなー……なーんて」
「なんらよー。お前もラノさんがいいのかよー」
「いや、僕じゃないですってば」
「ったく、お前は。俺というものがありながら『ラノさん、ラノさん』って……」
「あ、なんか可愛いこと言っている」
「なんか言ったかー?」
「はい。『おかわり要りますか?』って言いました」
息するように嘘を吐ける将之に
「要る―」
ニコニコと笑顔でおちょこを差し出した。
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