文化祭の余波 3

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「なんら?」 「僕の部下に女装して会ってくださいって話」 「そんな話、したっけ? 会いたいのは、お前じゃなかったのか?」  知己はおでんの鍋をつつきながら、酔っぱらうとこうも記憶がごちゃごちゃになるのか……のお手本のような返事をした。 「いや、まあ、それも全くなかったわけではないですが……!」  そこで、将之はハタと気付いた。 (先輩はクロードに頼んで、衣装を借りて帰ろうとしていた。    ↓  僕が見たいと言ったと勘違いしてたから。(あながち勘違いでもない。本音では見たかったから)    ↓ 「もう。将之がどうしても見たいというんなら、着てあげてもいいよ。本当は着たくなんかないんだけど、ね!」と、言いつつ、本当は僕に可愛い姿を見せたい。    ↓  結論、僕が好き) 「……ありがとうございます」 「ん? 急に何ら?」 「ちょっと後藤レベルの楽しい連想をしてしまって」 「後藤君レ()ルの連想? 何、それ。変なのー。あはは」  知己はそのままケタケタと笑い出した。  これは今までで一番酔っぱらっているのかもしれない。 (お酒って凄いな。あ、仕事終わらせたっていうのもあるんだろうな)  ついでに言えば、気になっていた俊也のこともなんとかなるかもしれないという淡い思いも混ざって、知己は妙に浮かれていた。 (待てよ……)  出来た熱燗を持って、将之は知己の元へ戻った。 (衣装を借りて帰ることをクロードに頼むとなると、あいつは僕らの関係を知っているからな。どんな意地悪を言い出すか分からない。借りる弱みに付け込まれて、先輩にエッチな要求でもされると大変だ)  将之の頭の中では、先日後藤がもってきたAV「家賃は体で」主演・平賀朋(知己そっくり女優)の内容が駆け巡っていた。 「先輩、絶対にクロードに頼んで借りて帰っちゃダメですよ」  熱燗のおかわりをもらいながら、知己は 「うん? いいのか?」  と聞き返した。 「あ、でも写真だけ撮って帰ってください。本当に知り合いだという証拠がいるんです。それで部下をうまく丸め込もうと思いますので」 「……丸め……込むのか?」  知己の(こいつってば、本当に根性悪いな)の視線に気づき 「失言でした。納得させようと思います」  と将之は言い換えた。 「んんー? よくは分からないけろ、お前がそれでいいのなら分かったのららら」
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