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注いでもらったおかわりをぐいっと一気に煽った。
知己のこのペース、尋常ではない。
「将之。お前もウロウロしてないで、ちゃんと座って飲め」
と知己は、酔っ払い特有の謎の言いがかりを始めた。
「……おかわりが欲しいって言ったのは、先輩ですよね?」
念のため確認するが、
「うるさいらー。俺はお前とゆっくり飲みたいのららら。ここに座って落ち着いて飲め」
酔っ払いに論理は通用しない顕著な状態だった。
襟首をつかまれて、隣に座らされる。
「あの、僕……さっきまで向かいに座ってたんですが」
知己の向かいに置いている器とおちょこを指さす。
「なんら? なんら? 俺の隣はそんなに嫌か?」
とうとう知己は宴席によくいる説教好きな先輩風吹かせるうざい上司みたいになってきた。だが相手が知己だと、うざくない。
「イヤじゃないですよ」
正直に答えると
「んー。将之、好っきー」
今度は幼稚園生みたいにべったりと将之の肩に頭をくっつけてきた。
「ふふふ、今日は大丈夫ですよ。インナーは襟ぐり広めのモノだし、前開きファスナーの部屋着ですから、いつもでオクトパスしちゃってください」
今日は知己対策もばっちりだ。
「んー? 何の話らー?」
と言いつつ、知己は吸い寄せられるように肩から鎖骨へ頭を移動させ、襟ぐりに顔を埋めた。
(あ、始まった)
ちゅうちゅうと吸い付きだした。
「いい匂いらなー。爽やかな木の匂いがする」
「よくは分かりませんが……」
木の匂いに心当たりはない。
「こっちも」
と将之が唇に指を当てて誘うと、将之の首にぐるっとタコのように巻き付いた後
「んー……」
と言いながらも、ちゃんと吸い付いてきた。
「やっぱり……檜の香りがする」
「あ。分かった。それ、間違いなくおちょこの匂いだ」
「んにゃ、将之の香りら」
「そうなんですか?」
「爽やかで……落ち着くのらら」
「森林浴みたいなもんですか」
「分からんが、この匂い、好きらなー」
そして顔を埋めてひとしきり匂いを嗅いでいた。
今日はずいぶんと「好き」を連発する。
「僕もですよ」
将之がそっと背中に腕を回す。
「一番好き?」
ぴょこんと知己が頭を上げて、訊いた。
「もちろんですよ」
「……礼ちゃんよりもラノさんよりも好き?」
意外と執念深い知己だった。
「あー。はいはい、大好きですよ」
「れんれん、心、籠ってない気がするのらららr……」
その上、疑り深い知己だった。
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