文化祭の余波 4

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文化祭の余波 4

 そして、12月24日を迎えた。 「どうだ、悪徳教師!」  ずかずかと理科室に入ってくるなり、敦は知己を罵倒した。 「誰が悪徳教師だ」  先に理科室に来ていた知己は、うんざりとして先頭の敦、その後に続く俊也と 「ほら、俊ちゃん! 往生際悪いな! さっさと入って!」  俊也の背中を押して入る章の三人を迎えた。  理科室の実験用机に、まるでトランプのように扇形に俊也の答案を、なぜか勝ち誇って広げる。 「この俊也のほぼ40点のテストを見たか」  なぜその点数で、しかも敦が威張るのかが分からない。 「なんで赤点回避ギリギリラインなんだ? もう少しいい点は取れないのか?」  俊也の中間はそこまで悪くなかったので、足して2で割っても30点を下回ることはなかった。 「だから悪徳教師って言うんだ。  ただでさえ教師の言語を理解できない俊也が『ラノさん』ショックでますます勉強が手に付かなくなったんだぞ。あやうく手遅れになる一歩手前だったんだ。俺達が勉強見てやらなかったら、一体どんな結末になっていたか……考えるに恐ろしい」  あの自信家の敦が「恐ろしい」という言葉を口にした。それほど俊也は悲惨な状態だったのだろう。  約束の日から一週間、二人は俊也の元に通いかわるがわる勉強を教えたらしい。  その努力は、しっかりと実を結んだ。 「あの時の俊ちゃん、大変だったんだよ。テスト範囲も分かってなかったし。記号問題なんか、ミラクルペンソー・フル出場も覚悟だったよね」 「もはやオール神託頼りの答案だったんだぞ。それをここまでやったんだから、むしろ褒めろ」  あやうく全て『神様の言う通り』答案を回避し、なんとか及第点をもぎ取ったわけだ。  敦に言われるまでもない。 「偉かったな、俊也」  知己が俊也の健闘をねぎらって声をかけると、俊也の顔がぶわっと一気に赤くなり、「まあな」と短く答え、反応に困ったようにぎこちなく微笑んだ。  思えば、これが俊也とは久しぶりの会話になる。  俊也の反応に、知己も表情が硬くなってしまう。  誤魔化すように、今度は俊也の隣の章に 「そんな状況で、よく章は自分の勉強もできたな」  と、話しかけた。  章も約束通りに華麗に1位に返り咲いていた。
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