文化祭の余波 4

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「勉強って、人に教えると身に付くっていうでしょ? 『アウトプットの重要性』って母も言ってました」  辛辣教育コメンテーター・吹山マヤの受け売りならしい。 「そんな感じで僕は、各教科平均93点で余裕の返り咲き」  ふざけてピースサインまで出して見せる。 「ケアレスミスがあって部分点になったものがあったので、およそ93」  しかも、ゆとり世代の円周率みたいな言い方された。 「僕もまだまだ詰めが甘いです」  と章は反省しつつ言うが (このこざかしい男が、これ以上、完璧に詰めるようになったら大変じゃないか?)  と、俊也と知己は思っていた。 「と、いうことで約束通り『ラノさん』よろー!」  大はしゃぎの敦と章の二人に、理科室に強引に連れてこられた俊也の温度差がはなはだしい。  知己はため息を一つ吐くと 「分かってる。ちょっと準備室で着替えてくるから待ってろ」  クロードから借りた衣装を持って、準備室に向かった。 「僕も手伝う」  すかさず章が付いてくる。 「いい」  何が楽しくて着替えを手伝うというのか。  知己が断ると 「その背中の長いファスナー、結構難しいよ」  純粋な親切心で言っているように聞こえた。 (そういえば、前回もクロードに手伝ってもらったっけ)  男性の服にはあまりない形で、ヨガみたいな摩訶不思議なポーズをとりつつファスナーを上げていたら、見かねてクロードが手伝ったのだ。  最中に、背中や首すじにふーっと息を吹きかけられる悪戯もされたが。 「変なこと、すんなよ」 「変なこと? 何それ?」  無邪気に笑う章。今の所、悪意は感じられない。 「じゃあ、敦ちゃん。後は手筈通りに」  章がウィンクしながら、敦に言うと (手筈?)  敦も「分かっている。任せろ」と手を挙げて応えた。
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