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「勉強って、人に教えると身に付くっていうでしょ? 『アウトプットの重要性』って母も言ってました」
辛辣教育コメンテーター・吹山マヤの受け売りならしい。
「そんな感じで僕は、各教科平均93点で余裕の返り咲き」
ふざけてピースサインまで出して見せる。
「ケアレスミスがあって部分点になったものがあったので、およそ93」
しかも、ゆとり世代の円周率みたいな言い方された。
「僕もまだまだ詰めが甘いです」
と章は反省しつつ言うが
(このこざかしい男が、これ以上、完璧に詰めるようになったら大変じゃないか?)
と、俊也と知己は思っていた。
「と、いうことで約束通り『ラノさん』よろー!」
大はしゃぎの敦と章の二人に、理科室に強引に連れてこられた俊也の温度差がはなはだしい。
知己はため息を一つ吐くと
「分かってる。ちょっと準備室で着替えてくるから待ってろ」
クロードから借りた衣装を持って、準備室に向かった。
「僕も手伝う」
すかさず章が付いてくる。
「いい」
何が楽しくて着替えを手伝うというのか。
知己が断ると
「その背中の長いファスナー、結構難しいよ」
純粋な親切心で言っているように聞こえた。
(そういえば、前回もクロードに手伝ってもらったっけ)
男性の服にはあまりない形で、ヨガみたいな摩訶不思議なポーズをとりつつファスナーを上げていたら、見かねてクロードが手伝ったのだ。
最中に、背中や首すじにふーっと息を吹きかけられる悪戯もされたが。
「変なこと、すんなよ」
「変なこと? 何それ?」
無邪気に笑う章。今の所、悪意は感じられない。
「じゃあ、敦ちゃん。後は手筈通りに」
章がウィンクしながら、敦に言うと
(手筈?)
敦も「分かっている。任せろ」と手を挙げて応えた。
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