文化祭の余波 4

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「はい。できたよ」  普通にファスナーをあげてもらい、(絶対に何かされる)と思ってた知己は肩透かしを食らった状態だった。  びっくりして章を見つめていると 「何? なんか変?」  着心地悪いのかと勘違いして章が訊いた。 「さっき敦と『手筈』がどうのとか言ってたから」 「あぁ、そっち?」  章は無邪気な笑顔で 「今からちょっと練習してもらおうと思って」  と、意外にあっさりと魂胆を明かした。 「練習? 何の?」 「俊ちゃんをスパッとたたっ斬る練習」  もちろん、物理的にではない。  この後、俊也が行うラノさんへの告白への返事のことだ。 (たたっ斬る前提なのか)  もちろん受け入れる気もないが。  相変わらず謎の友情だ。 「なんで、そんなことを?」 「それはもう、すっぱりと未練を残さずに断ってほしいから。下手をうって、これ以上こじらせないでよ。僕らじゃ介錯のしようがないからね。しっかりと練習しておこう」  やはり謎の友情だ。 「ちなみに隣では、敦ちゃんが俊ちゃんを猛特訓中」  これは「何の?」と聞かなくても分かる。告白の練習だ。 「なんか、不毛だ……」 「どっちが不毛だよ」  章が呆れて言う。 「男同士の恋愛って自然の摂理に逆らっている訳じゃん。そんな暇あったら、ちゃんと普通の女の子に恋した方がいいよ」 (……礼ちゃんと気が合う訳だ)  知己は、スピーディに礼と仲良くなった章に類似点を見出した。 「……章。それ、敦に言うなよ」 「なんで? 敦ちゃん、美少女顔だけど、ちゃんと付いているモノ付いているよ。小さい頃は一緒にお風呂入ったこともあるし」 「いや、まあ……うん、そうか。俺の勘違いか」  ごにょごにょと訳の分からないことを言う知己に 「あのね、先生。ただでさえ勉強嫌いな俊ちゃんを勉強させるの、めちゃくちゃ大変だったんだよ。口数少ないし、顔は青いし、口を開けば『ラノさん……』ばっかだし。夢に出るから、寝不足なんだって。  本当に全教科赤点回避って奇跡みたいなもんなんだからね」  煮え切らないと思ってか、章はとくとくと説明を始めた。 「夢に……」  そういえば、そんなこと言っていたな。 「聞けば、めっちゃ淫夢にご登場みたいだよ。現役DKの生々しい夢の話聞かされる僕らの身にもなってよ。先生相手に夢精している俊ちゃんなんて、イヤでしょ? 先生だって」  さらっと恐ろしいことを言う章に、知己はくらりと眩暈を覚えた。  テスト期間中に章達との会話も激減していたので免疫が薄れていた。久々の衝撃だ。45e92113-6e15-4489-ae1b-4b844890fb44
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