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(俊也……真剣だ)
あまりの真剣さに、知己の中にこの場から逃げたいような、あるいは目を背けたいような怯む気持ちが芽生えた。
(いや、ダメだ。俺も、ちゃんと俊也に向き合って……きちんと断ろう)
かろうじて踏みとどまる。
幸い、章が散々練習させてくれたお陰で、何と言うか言葉に迷わなくて済む。
(今更、考えまい。迷うまい。章と練習した通りにスパッと言ってしまおう。それが俊也への思いに報いることになる)
どうやっても受け入れることなんてできない。それなら、憂いを残さないのが一番だ。
大切な言葉を言おうと俊也の全身に力が入っているのが分かった。
そんな俊也を前に、知己も緊張する。両の拳を握りしめて、俊也の言葉を待った。
あの章と敦も、ふざけもせずに固唾をのんで見守っている。
「す……」
俊也の唇が開き、ややかすれた声が聞こえた。
「……好きです! 付き合ってください!」
始めこそかすれたものの、後は敦の猛特訓通りに気合の入った告白だった。
(言えた……!)
俊也の体からみなぎっていた力が、ふわっと抜けた。
知己は(来た!)と思った。
章と敦の視線も、知己に集中している。
(次は先生の番だよ!)
と、半ば祈りにも似た視線を投げる。
知己は、俊也の告白の後、即座に
「丁重に、おとこわりしますっっ!」
こちらも俊也に負けず劣らず、スパッと言い放った。
「え……?」
俊也が固まった。
「今……なんて?」
机の陰で、章と敦も変な表情で固まっている。
その場にいる全員しばらくの間固まっていたが、俊也が
「……………………………俺、………………割られる、の…………‥?」
何故か涙目でぽつりと言った。
「え……?」
俊也の微妙な反応に、知己も固まった。
それを機に、止まっていた時間が流れ始めた。
(しまった! 俺、大事な所で噛んでしまった!?)
緊張のあまり、何度も練習した言葉を知己は言い間違えてしまった。
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