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「俊也! ふざけんな」
怒る知己に
「ふざけてない。本気だ。俺、分かったんだ。本当に先生のことが好きだと分かったんだ」
がばっと上から被さるように抱きつかれ、知己が
「?!」
と俊也の意図の分からないハグに焦った。
「ちょ、ちょっと待……っ!」
知己が制するよりも早く
「ちょっと待ったぁ!」
ガラリと保健室のドアが開いた。
そこには両腕を組んで仁王立ちの章が居た。まるで蒸気機関車が吐き出す蒸気みたいに鼻からふーんと激しい呼気を出すと、ギロリと俊也と知己を睨み付けた。
敦が「おい、覗くだけだったんじゃ?」と止めるのも聞かずに、次の瞬間にはずかずかと中に入ってきた。
「俊ちゃん、調子に乗んないでよねー!」
声を荒げながら俊也に抱きしめられている知己を、章がムイっと引っぱり上げるように起こした。
「え? あ? うん?」
章に引き離されてベッド脇に立たされた知己は、いまだ状況が飲み込めずに一人、唸っている。
「……お前ら、ずっと見てたのか」
バツが悪そうに俊也が訊くと
「俊也のことが気になって」
敦が章を押さえながら言うが、いかんせん、敦は小柄で非力だ。可哀そうなほどふんふん唸る章に引きずられ、今は章の背中にくっつくセミみたいになっている。
さも心配しているような口ぶりだが、「気になる」と自分で言っているくらいだ。興味半分で覗いていたのは間違いない。
(あ、分かった……!)
やっと知己は状況を飲み込んだ。
(こいつら、また俺で遊んでいるんだな)
その証拠に章達が一部始終覗いていたではないか。
(今度は、一体何のゲームなんだよ)
おおかた、俊也に告白させて知己の反応を楽しむ趣味の悪い遊びだと思われた。
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