初詣 1

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初詣 1

 1月も4日となると、かなり正月気分は薄れる。  5日になれば、更に。  仕事始めの所も増え、街は日常を取り戻していた。  将之は今日から仕事だと出勤した。  知己は年休消化と言って、冬休みに年休をつぎ込んだので勤務は7日からだ。それで知己は一人家に残り、ダラダラと過ごしていた。 「昼は何、食べよ」  冷蔵庫を覗き込むと、将之が作り置きしているタッパーが目に飛び込んだ。  昼に知己が困らぬように、温めて食べたらいいものをいくつかのタッパーに詰めて保存してくれていた。 「デキた嫁さんだ……」  思わず知己が呟いた。  火力調節が苦手で、学生時代「炭素の錬金術師(カーボンアルケミスト)」と謳われ、大抵の物質を炭化させてしまう知己だが、さすがに理科教師なだけあって電子レンジだけは使えた。科学的知識があるので、電子レンジに金属の器を入れない初歩的な知識はもちろん、卵をはじめとする食品の爆発や液体の突沸などやりがちなミスだけは起こしたことがない。それで将之も「これだけは使っていいです」と7匹の子ヤギのお母さんのように言って、出かけて行った。  将之の用意するものは、手の込んだものが多かった。  一人で暮らしていた時は冷蔵庫の中は隙間だらけで必要なものだけを買ってきていたが、二人で暮らすようになってからは、時間があるとなにかしら作るようになっていた。それもこれも知己に作らせると鍋やフライパンの焦げ落としなど、主に後片付けに酷い目に遭わされるからだ。できるだけ知己にはキッチンに立ってほしくない一心で将之が動いていたら、いつのまにか将之の趣味は料理のようになっていた。  しかし、今日はそんな気分ではない。  贅沢を言うようだが、豪華な正月料理には飽いた。そろそろジャンクフードが食べたくなる……それが1月5日。
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