242人が本棚に入れています
本棚に追加
世界広しと言えど、知己を「先生」と呼ぶ人物は限られている。
電話口に該当するであろう心当たりの名前を、思いっきり訝しんで尋ねた。
「…………………………………………………………………………章か?」
「あったり―!」
電話口で、きゃっきゃきゃっきゃと無邪気に笑い出した。
「なかなか電話出てくれないから、次はショートメールで『章です。電話に出て!』と送ろうかと思ってた」
(メール送ってくれたら、確実に電話出なかったのに……)
「やー、出てくれて良かったぁ!」
ある意味、嫌な予感は的中した。
「なんで、俺の番号を……?」
(まさか卿子さんが……いや、それはない。章達のことは未だに警戒している。すると……クロード辺りが面白がって教えたのか?)
恐る恐る情報源を聞くと
「あ、それ? 二学期最後の日にラノさんになった先生が自撮りしてたじゃない。自分じゃ上手く撮れないから、僕に携帯を持たせたでしょ。その時にこっそり自分の携帯に電話かけといたんだ! ワン切りで着歴残るから、それで先生のケーバンゲットぉ!」
確かに、自撮りでは将之に頼まれた女装写真をうまく撮れずに「撮ろうか?」と言ってくれた章に頼んだのだ。
(あの一瞬に?)
油断も隙もない。
DKの高速の指技で、知己の電話から章へと発信していた。
発信履歴なんて、ほとんど見ないのでまったく気付かなかった。
(携帯会社って、正月はいつから開くんだっけ?)
速攻、番号を変えねば……と知己は思った。
「あ、今、ケーバン変えようとか思った?」
(なぜ分かるんだ?)
とても「そうだ」とは言えずに、知己は話を誤魔化そうとした。
「いや。あ、……い、一体、何の用だ?」
「言っとくけど、ケーバン変えたら恨むからね」
(恨む? よし、その程度で済むのなら変えよう)
「それよりも用件を言え」
「恨んだら、先生が困るゲームを考えちゃうからね」
「は?」
1学期の頭と胃が痛くなった教師イジメゲームを思い出していた。
「さらに言っとくけど、敦ちゃんと一緒に考えるからね。それでもいいの?」
1学期のゲームは、敦の単独犯だった。
(今回は一緒にだと? 文化祭で敦をやり込める秘策仕込んでた章と敦が組むだと?)
最初のコメントを投稿しよう!