初詣 1

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 世界広しと言えど、知己を「先生」と呼ぶ人物は限られている。  電話口に該当するであろう心当たりの名前を、思いっきり訝しんで尋ねた。 「…………………………………………………………………………章か?」   「あったり―!」  電話口で、きゃっきゃきゃっきゃと無邪気に笑い出した。 「なかなか電話出てくれないから、次はショートメールで『章です。電話に出て!』と送ろうかと思ってた」 (メール送ってくれたら、確実に電話出なかったのに……) 「やー、出てくれて良かったぁ!」  ある意味、嫌な予感は的中した。 「なんで、俺の番号を……?」 (まさか卿子さんが……いや、それはない。章達のことは未だに警戒している。すると……クロード辺りが面白がって教えたのか?)  恐る恐る情報源を聞くと 「あ、それ? 二学期最後の日にラノさんになった先生が自撮りしてたじゃない。自分じゃ上手く撮れないから、僕に携帯を持たせたでしょ。その時にこっそり自分の携帯に電話かけといたんだ! ワン切りで着歴残るから、それで先生のケーバンゲットぉ!」  確かに、自撮りでは将之に頼まれた女装写真をうまく撮れずに「撮ろうか?」と言ってくれた章に頼んだのだ。 (あの一瞬に?)  油断も隙もない。  DKの高速の指技で、知己の電話から章へと発信していた。  発信履歴なんて、ほとんど見ないのでまったく気付かなかった。 (携帯会社って、正月はいつから開くんだっけ?)  速攻、番号を変えねば……と知己は思った。 「あ、今、ケーバン変えようとか思った?」 (なぜ分かるんだ?)  とても「そうだ」とは言えずに、知己は話を誤魔化そうとした。 「いや。あ、……い、一体、何の用だ?」 「言っとくけど、ケーバン変えたら恨むからね」 (恨む? よし、その程度で済むのなら変えよう) 「それよりも用件を言え」 「恨んだら、先生が困るゲームを考えちゃうからね」 「は?」  1学期の頭と胃が痛くなった教師イジメゲームを思い出していた。 「さらに言っとくけど、敦ちゃんと一緒に考えるからね。それでもいいの?」  1学期のゲームは、敦の単独犯だった。 (今回は一緒にだと? 文化祭で敦をやり込める秘策仕込んでた章と敦が組むだと?)
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