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(……なんて脅しだよ)
電話口の向こうで、敦が「何の話だ?」と章に話しかけた。よく聞くと、俊也の「おい、先生はなんて?」という声も聞こえる。
おそらく三人一緒に居るところで電話をかけているのだろう。
「ちょっと待て」
(敦は俺を嫌っているから、章が俺のケーバン知らない方が都合いいだろ? 章に協力するとは思えないが……)
なかなかはっきり返答しない知己に
「敦ちゃーん!」
更に追い詰めるべく、章が敦を呼んだ。
「ねえねえ、僕と初めての共同作業をしない?」
(しょっちゅう、つるんでいるくせに!)
という知己の心のツッコミは、現実には声を出していないから聞こえない。
あからさま過ぎるハニートラップなのに、敦は「する」と即答していた。
「分かった! ケーバンは変えない! だから、さっさと用件を言え!」
あえなく知己は陥落した。
「初詣行かない?」
「行かない」
と答えると、すかさず章が「敦ちゃーん!」と呼びつけ、敦は「何だ?」と答えていた。
「分かった!」
(これは正月早々面倒になる)
と判断した知己が、慌てた。
「付き合うの一回だけだぞ」
「やったー! 先生、ありがと。今、ちょうど敦ちゃんも俊ちゃんもうちに集まってて」
(それは声で分かった)
「せっかくのお正月だから、それらしいことをしたいねって話してたんだ」
(だったら、俺抜きでやってくれ)
「今年は僕ら受験生になるからね。だったらお参りしておこうってなったんだ」
よほど嬉しかったのだろう。
知己が口を挟む間もなく立て続けに章が喋る。
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