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「ねえ、ねえ。先生、どこの神社行きたい?」
「どこでもいい」
「じゃあ、移動するの面倒そうだから先生んちの近くの神社にしようか?」
ぐいぐいと恩着せがましく、話を進めた。
「……住んでる所なら教えないぞ」
「どこでもいいって言ったくせに」
「この流れで教えると思うか?」
「ちっ。先生、思ったよりも頭いいんだねー」
とても生徒が教師に言う言葉ではないが、普段、章達が教師に対して思っていることが前面に出ている。
「じゃあ、うちの近くの神社にしよう。先生、担任なんだからうちの住所分かるよね?」
(それは……、残念ながら分かる)
個人情報管理が厳しい中、長期休暇中は不測の事態に応じられるように特別に持ち出しOKとされていた。
だが校長も、こんな不測の初詣事態が起こるとは思ってもみなかっただろう。
「ねえねえ。お昼はどうする? 僕たちまだだから一緒に食べたいんだけど」
「あ……」
思わず知己はキッチンのカウンターを見た。オイルタイマーは、完全に落ち切っている。
「俺は……食ってから行く」
知己は遥か前に作ったカップ麺の事を思い出した。
「そう。じゃあ、僕らもご飯食べてからにするね。まーたねー!」
章はご機嫌に電話を切った。
「う。なんて極太麺になったんだ……」
まさかのカップ麺での失敗に、知己は泣きそうな気持ちになった。
まだ温かいことだけが、唯一の救いだった。
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