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初詣 2
「先生、ここだよー!」
高校に家庭訪問はない。
初めて来た土地で住所録を頼りに彷徨っていると、章が知己の姿を見つけて、大袈裟に手を振った。
門扉までに続く5段程の短い階段に、章達三人が段を変えてちぐはぐに座って待っている。
「あけおめのことよろ!」
「ああ、おめでとう」
言いながら、章の家を見上げる。
閑静な住宅街だが、すぐ傍に役所や高層ビルが見える。そこに隣接するようにショッピングモールが並び、高速道路との連結も良い。利便性抜群の好立地だ。
その高級住宅街の中でも、更にきらびやかさを放つ一画。
「……章の家、本当に敦の家の隣なんだな」
それが吹山家であり、隣にそびえる豪邸は梅木家であった。
吹山家は壁沿いに優雅に弧を描いて階段を上るとエレガントな白い門、そこから煉瓦の小道が伸びて玄関へと向かっている洋風な二階建て建物だった。メルヘンチックなのは母の趣味だろうか。
隣の梅木家は無機質な防犯カメラが、黒い門扉を2カ所から捕えている。それを隔てて奥の方に頑丈そうな玄関口が垣間見える和風建築だった。他の家屋よりも一周り大きい。
「何をいまさら……ん? なんか先生、顔色悪くない?」
「ちょっと……、麺がありえないほどブヨブヨしてたんで、ちょっと胸焼けが」
箸で持ち上げた瞬間ちぎれるほど汁を吸った極太麺になってはいるものの、食べられないことはないので、我慢して食べたのだ。
「なんかよく分かんないけど……?」
心配する章に
「さっさとお参りに行こうぜ」
と敦は面白くなさそうに急かした。
「ここから歩いて10分くらいに神社があるよ。そこに行こう」
章達の住む住宅街からも見えるショッピングモールの並びに大きな神社もあった。意外な配置に思えたが、元々城下町がそのまま地域の中心地として繁栄してきた。神社の周りに建物が配置されたに過ぎない。
ショッピングモールの近くということもあり、買い物客がそのままついでに初詣に流れ込んでいるようで、1月5日だと言うのにいまだ人が多かった。
「わあ、お参りするのに並ばなくっちゃ……!」
大勢の人を前にやや驚くものの、章達は行儀よく参拝客の列の最後尾に並んだ。
その中で、そっと知己のコートの右袖を摘まむ者が居た。
「……?」
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