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「俊也……?」
「あ?」
何故か凄まれた。
「勘違いすんなよ! 先生がぼーっとしてるから迷子にでもなったら大変だと思って、ちょっと手でも繋いでおこうかと思っただけで、下心とかないからな!」
多分、本人は照れ隠しなのだろう。だが、あまりにもトゲトゲしい言い方に、つり目をますます細めているから睨んでいるとしか見えない。
「……俺は6歳児か?」
甥っ子・宗孝と同じ扱いに、苦笑いを浮かべる。
「そうだぞ、俊也。こいつ、もうすぐ三十才だぞ。血迷うのもいい加減にしろ」
敦が言うと
「はあ? なにそれ? それより、先生。僕も僕も!」
対抗して知己の左手を掴むと、指と指の間に自分の指を絡め、章は恋人握りをして俊也に微笑んでみせた。
呆れる知己が
「二人とも、俺を幼児扱いすんな」
二人の手を振りほどいて、手を上着のポケットに入れてガードする形をとった。そんなの関係なく納得しきれない二人が知己を挟んで、尚も火花を散らす。
「それにな、『もうすぐ三十路のおっさん』じゃなく、『もう三十路のおっさん』なんだ、俺は」
二人を落ち着かせようと、やや自虐っぽく言うと
「は?!」
思ったよりも過剰な反応を三人が示した。
「あ、えーっと……?」
(しまった。余計なこと言ったか?)
「えーっと……『お、おめでとう』? で、いいのか?」
「え、あぁ! そうだよ! 『おめでとう』だよ!」
「おめでとう、三十才!」
「多分、おめでとう!」
三人が戸惑いながら、ぎこちない笑顔浮かべて「おめでとう」を連呼する。参拝客並ぶ参道でパチパチと拍手までし始めて、なんだか晒し者のような、ちっとも嬉しくない「おめでとう」の嵐だ。
(何だろうな。20代から30代になっただけなのに、えらく引かれている気がする)
春先の家永を思い出す。
(俺は普通に「おめでとう」言ったつもりだったが、家永も地味に傷ついてたのかな?)
あの日、ラノさん扮装したのが20代最後の日。あまりと言えばあまりなメモリアルデー。
「じゃ、先生。冬休みにめでたく誕生日迎えたってこと?」
ぎく。
(いかん。またこいつらのペースでうっかりしゃべってしまうところだった)
「まあ、……そうだ」
冷や汗混じりで答えると
「いつ?」
単刀直入に聞かれた。
「……ひ、秘密」
「下手め。個人情報言いたくない合コンのOLでも、もうちょっと何か上手く答えそうだが」
容赦ない敦のツッコミに知己は耐えた。
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