初詣 2

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(あれ? ……初詣だけの筈では?)  小首かしげる知己を無視して、モール一階に出店しているコーヒー全国チェーン店の前に章は連れてきた。 「僕、久しぶりにキャラメルマキアート飲みたいな」  店の前の立て看見て、章が呟く。  おそらく、このまま帰してはもらえまい。 (仕方ない。ここまで付き合おう。それだったら、帰っても文句ないだろ)  諦めて、外よりふと店内を見渡した。  3時過ぎの柔らかな冬の午後の光射す店内。客は、まばらだった。 (え?) 「俺はカフェ・ラ・テでいいや」 「じゃ俺は、エクストラコーヒー ダーク モカ チップ フラペチーノ」 「あはは、やばい、俊ちゃん! 何か中2っぽい呪文みたい!」 「普通に商品名を読み上げただけだろ」  いつものように章が俊也をからかっていた中、敦が 「おい、どうした? ハニトラ教師。何を固まっている?」  知己の様子に気付いた。  だが、知己に声は届いていない。 (なんで? あいつがここに?)  さっき、初詣全く行かなさそうだと思っていた男が何故かそこに居る。  しかも女性を連れて。 「お前ら、そこの自販機に行こう」  知己がモール脇のベンチを指さす。 「えー? 自販機?!」  あからさまに章が不満を訴える。 「何でだ? 以前の俺達とは違う。薄給の教師にたかったりしないから安心しろ」  多分、知己には想像つかない金額の小遣いをもらっていると思われる敦が言うと 「むしろ付き合ってくれてありがとう。お礼に僕が奢るよ。だから、キャラメルマキアート!」  こちらも大概お坊ちゃん育ちの章が店の前で踏ん張った。 「いや、それなら俺が」  梅ノ木グループレストラン部門社長の息子も名乗りを上げる。 「お前ら、何を競ってんだ?」  敦だけが冷静に突っ込みをいれる。 (庶民、俺だけだな。何で、俺はここに居るんだろう?)  突如、謎の疎外感に知己は見舞われた。
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