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「頼むから、やめろ。生徒に奢られたら、俺の立場ないだろ?」
と言うか
(ここで騒ぐな! 俺は一刻も早く移動したい!)
店の前から踵を返すが、敦は動きたがらない。
(それにしても誰だろう?)
将之のむかいに座るのは、ボブカットにスクエア眼鏡の女性。お互いに携帯を見せ合って、何やら談笑している。
(そういや、あいつ。外面良かったっけ……)
フェミニストで好青年ヅラして、卿子をはじめとする女性に受けが良いのは、知己も知っていた。
チラリと隣を見ると
「何だよ? 俺は店のカフェ・ラ・テが飲みたいんだ。しかもグランデで! 自販機のじゃなく」
と敦が睨み返してくる。
(大きく括ったら、こいつと同じ感じだな)
敦は恐ろしいほどの分厚いレンズの眼鏡をかけている。それを外せば、たちまち超絶美少女になり、もはや変身の域だ。
(眼鏡外したら、めちゃ美人系の……)
将之のむかいの女性にそれを感じとって、もやっとした感情が腹の奥底から湧き立つ。
しかも、眼鏡の清楚美人はタイトスカートの黒い定番スーツで、いかにも仕事できそうな雰囲気を醸し出している。
(あいつ……。仕事始めと言いながら、本当はデートかよ?)
「じゃあ、先生が奢ってくれるの?」
章が訊くと
「う……、やむを得んな」
知己が渋々答えた。
するとまったく動きたがらない敦と違い、章は知己に従ってクルンと店の方に背を向けた。
(え……?)
絶対になんやかんや言って動かないと思っていただけに、知己が驚く。
「先生が買ってくれるのなら、僕はご当地キーホルダーのキテ〇ちゃんやキュー〇ーさんでも嬉しいな!
奢ってもらったペットボトルは、大事に持って帰って飾るね」
買ってもらう前から、大はしゃぎの章に
「いや、すぐに捨ててくれ」
知己は、若干引き気味に返事をした。
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