初詣 3

2/8
前へ
/778ページ
次へ
(あれ? 何だろう)  ふと、将之に違和感を感じる。  帰ってきて、すぐに自室に行き。  その後、キッチンの冷蔵庫を覗いて。  食品をレンチンして、器に移す。 (……分かった!)  無駄なく動いているように見えて、裏を返せば、知己の目を見て話をしていないのだ。 (……やはり、何かやましいことでもあるのか?)  温めた夕飯を手際よく次々とテーブルに運ぶ将之は、忙しい素振りで、テーブルの向こうに座る知己を一度も見ようとしない。  カチャカチャと食器の音だけが聞こえる。  向かい合わせでテーブルについているのに、お互いに顔も見ずに無言で食べるのも異常な風景だ。  沈黙の重さに耐えきれずに、知己が 「あのさ、将之……。お前……」  俺に何か隠してないか? と聞く前に将之が食べ終わり、まるで知己の言葉を遮るように、勢い良く手を合わせて「ごちそうさま」のポーズを取った。その後もさっと立ち上がって、食器を片付けに行ってしまった。  片や知己は昼間の極太麺の影響で、いまだに胸焼けがしてそこまで箸が進まないため、半分がやっとだ。  ぽつんと取り残されて、知己は (なんだ? あいつ……)  苛立ちのような、怒りのような、そして不安と焦り……色々な気持ちが綯い交ぜになって、もはやどうしたらいいか分からなくなってしまっていた。 (将之に口を割らせる方法は……)  果たしてそんなものがあるのか?  確実に、知己では将之に話術で勝てない。  将之が素直に話すとは思えないが、かと言って策を弄するのは苦手だ。  だんだん、胸焼けではないモヤモヤとした気持ちになる。   (あの子……)  カフェにしたメガネの清楚美人を思う。 (可愛かった……。若かった……。将之と楽しそうだった……)  モヤモヤはやがて、妬ましい気持ちに変わっていた。  自分にないものをたくさん持っている彼女を羨ましく思う。 (何故俺はあの後、神社に戻って将之と彼女との縁切りを頼まなかったんだろう……)  卑屈な考えに囚われてしまい、 (いやいや、そうじゃなく)  途中から味がしなくなった食事をやっと終えて、知己が思い切って声をかけた。 「将之……。俺のことが邪魔になったのなら、そう言ってくれ」
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加