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(あれ? 何だろう)
ふと、将之に違和感を感じる。
帰ってきて、すぐに自室に行き。
その後、キッチンの冷蔵庫を覗いて。
食品をレンチンして、器に移す。
(……分かった!)
無駄なく動いているように見えて、裏を返せば、知己の目を見て話をしていないのだ。
(……やはり、何かやましいことでもあるのか?)
温めた夕飯を手際よく次々とテーブルに運ぶ将之は、忙しい素振りで、テーブルの向こうに座る知己を一度も見ようとしない。
カチャカチャと食器の音だけが聞こえる。
向かい合わせでテーブルについているのに、お互いに顔も見ずに無言で食べるのも異常な風景だ。
沈黙の重さに耐えきれずに、知己が
「あのさ、将之……。お前……」
俺に何か隠してないか? と聞く前に将之が食べ終わり、まるで知己の言葉を遮るように、勢い良く手を合わせて「ごちそうさま」のポーズを取った。その後もさっと立ち上がって、食器を片付けに行ってしまった。
片や知己は昼間の極太麺の影響で、いまだに胸焼けがしてそこまで箸が進まないため、半分がやっとだ。
ぽつんと取り残されて、知己は
(なんだ? あいつ……)
苛立ちのような、怒りのような、そして不安と焦り……色々な気持ちが綯い交ぜになって、もはやどうしたらいいか分からなくなってしまっていた。
(将之に口を割らせる方法は……)
果たしてそんなものがあるのか?
確実に、知己では将之に話術で勝てない。
将之が素直に話すとは思えないが、かと言って策を弄するのは苦手だ。
だんだん、胸焼けではないモヤモヤとした気持ちになる。
(あの子……)
カフェにしたメガネの清楚美人を思う。
(可愛かった……。若かった……。将之と楽しそうだった……)
モヤモヤはやがて、妬ましい気持ちに変わっていた。
自分にないものをたくさん持っている彼女を羨ましく思う。
(何故俺はあの後、神社に戻って将之と彼女との縁切りを頼まなかったんだろう……)
卑屈な考えに囚われてしまい、
(いやいや、そうじゃなく)
途中から味がしなくなった食事をやっと終えて、知己が思い切って声をかけた。
「将之……。俺のことが邪魔になったのなら、そう言ってくれ」
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