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「邪魔?」
将之は驚いたように一瞬顔を上げたが、やはり視線を合わすことはなかった。
知己の持ってきた食器を受け取ると、ビルトインタイプの食洗器に軽く水洗いして入れる。食洗器が洗ってくれるのだから、水洗いする必要ないと知己はいつも思うのだが、
「そのまま入れると庫内にゴミが溜まるでしょ? それが嫌なんです」
といちいち水洗いして入れるのが、将之の使い方だった。
「そんなに邪険にしてました? 僕」
作業しながら、将之が言うと
「言っとくけど、キッチンのことじゃないぞ」
将之が誤魔化さぬよう、先んじて知己が釘を刺した。
「そんなこと、分かってますよ」
将之はキッチンから出てきて、リビングのソファに移動した。
その後に、「おいでおいで」と知己を手招きして知己もソファに座らせる。L字型にセットしているソファの短辺に知己を座らせ、自分は長辺に座る。神妙な面持ちで、上体をのしかかるようにかぶせ、緩く開いた足に腕を乗せると指を組んだ。
「先輩……、僕に隠し事しているでしょ?」
そこでやっと将之は顔を上げた。さっきとは打って変わって、知己を見据えて動かない。
(え?)
「今日の昼間、どこで何をしていました? 正直に僕の目を見て言ってください」
(あれ?)
「いや、嘘をついたっていいですよ。僕、分かるんですから」
(なんで? どうして?)
「ただ、先輩に嘘を吐かれると僕は悲しいです。だから、これ以上僕を悲しませないで。できるだけ本当のことを話してほしい……」
そう言うと、将之はゆっくりとリビングのローテーブルに視線を落とした。
(いつ、どこで立場入れ替わった?!)
何故、自分が責められているような尋問を受けているのだろう?
しかも、数年ぶりに説教受ける立場にもなっている気がする。
職業柄、知己は説教する立場になることが往々にしてあったが、この受ける立場になるのは久しい。
まったく同じことを訊こうと思っていた知己は、先制のチャンスを奪われてどうしていいか分からずに途方に暮れた。
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