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「落ち着け、将之」
「何言っているんですか、僕はめちゃくちゃ落ち着いていますよ」
ほぼ酔っ払いの「俺は酔ってねえぞ」と同義語と思われた。
「いや、世間ではそれを『落ち着いていない』という」
将之がヒートアップすると、かえって知己の心は静まった。
「参拝した神社の神様の得意分野は知らなかったんだってば。だから、普通に祈ったんだよ。今年一年の無病息災を。お前の分も」
「……!」
マシンガントークの将之が、ピタリと止まった。
「……本当?」
知己の顔を、探るように覗き込む。
「本当だよ。嘘なんかついてない」
知己は知己で、ずいっと前のめりになって将之を下から見上げた。
先ほどから、あまりにひどい言われよう。それが悔しいので、視線を絶対に外さないと決めて将之を見つめた。いや、睨んだ。
「ガン見ですか? 挑戦的ですね」
将之も負けじと知己を見つめた。
「お前が目を見て言えって言ったんじゃないか」
そのまま二人は一歩も引かず、お互いにジリジリと詰め寄る。やがて額がくっつきそうなほど近い距離で睨み合った。もはや路地裏のヤンキーのメンチ対決。火花散りそうな一発触発の状態である。
「?!」
不意に将之が顔を傾けたかと思ったら、知己の両頬を逃げられないように固定した。
「ん……! んんんー……っ!」
次の瞬間、唇に触れた柔らかな感触に驚き、知己はこれ以上ないほど大きく目を見開いた。
慌てて将之の手首を掴むが、びくともしない。
「ん……っ、ふっ」
塞がれて声もままならない。甘い痺れとわずかな息苦しさに、知己は強くと目を閉じた。
すると、改めて将之は唇を塞ぎ直すように、もう一度深く口づけた。
舌でゆっくりと知己の唇をなぞる。
(将之? どういう、……つもり?)
思考がうまくまとまらない。
耳の鼓膜の奥辺りがざわつく。やがて甘い痺れが走り、頭がぼうっと霞みがかった。
霞んだ頭で判断がつかない。将之の手首を握る手にも力が入らずに、添えるだけになっていた。
「ふ……、う……」
唇の隙間から、知己の戸惑いの声が漏れた。
将之の意図がつかめず、それでも舐められた唇を促されるままに開くと、ゆっくりと舌は知己の歯列を割って入ってきた。
好きにさせるのも癪だ。
なけなしのプライドで、知己はこれ以上の蹂躙をよしとせずに、舌を喉奥に避難させた。
が、狭い口の中。
すぐに追い詰められた。
表面を舌先でくすぐられ、観念したかのように知己もたどたどしくそれに応じる。
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