初詣 3

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 お互いに絡め合う水音が響く。  満足したのか、将之が知己から顔を離した。  先ほどのキスの余韻で、知己の少し開いた口の端から唾液が透明な糸を引く。  未だ甘い痺れでうっとりとして動けずにいる知己の蠱惑的な表情に、将之が (何年一緒に居ても、これは見飽きないな)  と思っていたら、突然、知己の目に光が宿った。  知己は、拳の後ろでぐいと口を拭ったと思ったら 「突然、何しやがる!?」  と怒鳴りつけた。 「え? 今、この流れでそれ?」  にらみ合いの最中に顔が近いから、キス。知己にしてみたら、お笑い芸人同志でしか見たことない流れだった。 「先輩の方が悪いのに、あんなにガン見してくるから。どうしても目を瞑ってもらおうと思って」  それだけの理由か。  知己は呆れた。 「おい、ちょっと待て。俺は悪くないぞ」 「あんなハーレム状態でも?」 「ハーレムじゃねえよ! お前は、もう少し俺を信用しろ」 「んー、分かりました。百万歩譲って、先輩が悪くないとしましょう」  百万……。  どうやら将之に譲る気はさらさらない。 「それのどこが『分かった』なんだ?」 「分かったのは、ここです」  不意に将之が、知己のジーンズの前を掴んだ。 「ひゃぁ!」  緩く兆したそこを突然摘ままれて、知己は赤くなって驚きの声を上げた。 「キスだけで、もうこんなになって。先輩は可愛いな」 「ぐ、グリグリすんなー!」  知己が抑えようとするが、かまわずに将之は指をせわしなく動かして、いたずらに知己を高めていく。 「続き、したいでしょ?」  にやりと笑う将之に、素直に答えるのは性に合わない。  癪に障るし、無性に腹が立つ。  だが 「…………………………………………したい」  目を瞑らせるための濃厚なキスで兆したそれを弄られて、収まりつかなくなった知己はうっかりと本音を滑らせた。 (あ……)  性に合わないし、癪に障るし、無性に腹が立ったが、素直に「したい」と言ってよかった。  将之が、すごく嬉しそうに微笑んだから。
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