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初詣 おまけ
(……チョロいのは俺の方だった)
翌朝、目覚めて知己は落ち込んだ。
まんまと将之に丸め込まれた感でいっぱいだ。
ベッドの隣のスペースは、既に空。
将之は早々と起きて朝食の準備をしているようだ。
追いかけるようにヨロヨロとキッチンに向かった。
「俺だって、将之に訊きたいことがあったのに!」
「おはようございます。何です? 起き抜けに」
昨夜、なんとなく雰囲気に流されて、自分の尋ねたいことを訊きそびれてしまったことを口にした。
「なんでお前、あそこに居たんだ? ……う」
大きな声を出すと腰に響く。
「う?」
「……俺のことはいいから。
昨日、お前だってカフェで女の人と居たくせに」
「それ、今……ですか?」
「さっきからうるさいな。俺も喋ったんだから、お前も正直に話せよ」
キッチンカウンターの向こうのテーブルに縋りつき、知己はゆっくりと腰を下ろした。
「ああ。あの時のことですか?」
知己は続きを促すかのように、頷く。
「ちょっと遅くなったけど、休憩とってました。僕の職場、あそこから徒歩3分圏内なので」
(あ。そういえばそうだったな……)
神社・モールの目の前にそびえるビル・庁舎は目の前だった。しかも、そこの7階に県教育委員会が入っていたのを思い出した。
「……一緒にいた彼女は誰だ?」
「覚えてないんですか?」
「質問に質問を返すな」
はぐらかされたようで、腹が立つ。
気持ちが顔に出ていたようで、将之が
「別に隠そうとか思ってませんよ。先輩と違って僕には何にも後ろめたいこともないし」
「いちいち悪意ある言い方すんな」
クロワッサンをスライスし、ハムや卵やレタスを挟んだものと、コーヒーを次々とテーブルに出しながら答える。
相変わらずのデキた嫁っぷりだ。
「彼女は、ただの同志です。ラノラーです」
「らのらー……? なんだ。それ?」
「一緒に写真まで撮っておいて」
「え? 何の話だ?」
写真など、まったく記憶にない。
「僕の後輩です。文化祭で写真撮ったでしょ?」
「あ?」
「クリスマス前に写真、見せたでしょ? 覚えてないんですか?」
そう言われたら、そんな気がする。
いまいちピンと来てなさそうな知己に呆れて、将之は携帯を取り出した。
「ほら。これ」
いつか見た、文化祭での女装の知己とその横で微笑む黒スーツメガネの真面目そうな女性。
間違いなく、将之と一緒に居た女性だ。
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