吹山章の独白

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「3学期の期末の範囲は、どうしてこうも広いんだ?」  ほら、また「今更、何、当たり前のことを言ってんだ?」みたいな空気になった。 「1年分の範囲だもんね」  だから「3学期のテストなんだろ?」と僕は思いつつも返事をしました。  というか、教卓で教科書を読んでいる振りしている先生が、教科書の上から目だけ……しかも涙目になって、こっちを見ているんだけど。  きっと、先生も俊也のダメな話に聞き入って「やばい。このあほの子、また赤点取るかもしれない。どうしよう。面倒見きれない」とでも思っているに違いない。 「範囲が広すぎて俺のダウジングも通用しない」 「前から思ってたけど、それ、ダウジングって言わなくない?」 「え? 違うのか? 出そうな所にヤマかけることをダウジングとかっこよく言わないのか?」  ダウジングはお宝出そうな所を探すだけ。テストの出題問題までは、無理だと思う。  きっと、俊ちゃんは「なんか出そう」ってとこだけしか分かっていなかったと思われました。 「……」  とうとう敦ちゃんまで黙っちゃった。  先生に至っては、教科書から顔が出ている。  色は真っ青。目の端に涙を浮かべている。きっと、今、胃がキリキリと痛くなっているんじゃないかな? 「まあ、まあ。俊ちゃんの成績は、いつだってデルタ翼。ハリアーかってくらいの低空飛行が得意」 「ハリアー? 車?」  敦ちゃんは高級車の方を想像したみたい。 「いや、戦闘機。ホバリングも得意だよ。この間観た映画に出てた」 「章は、テスト前に映画観てたのか」  僕は、今のバリバリの美しいCGよりも、ちょっと前の控えめなCGや特殊撮影の映画が好きです。これ、どうやって撮ったんだろうと考えるのが楽しい。 「……よくは分からないけど、俊也が危機的状況で章がめちゃ余裕あるのだけは分かった」  さっきの僕と同じ感想を敦ちゃんが溜息吐き交じりで言った時には、先生はもう身を乗り出して (お前ら、なんとかしてやってくれー!)  みたいになっていました。  ああ、また俊ちゃんのお尻叩いて勉強させなきゃいけないのか……。  先生が「また女装してやるぞ」とひとこと言えば、きっと俊ちゃんは目の前に人参ぶら下げた馬みたいに、がんばるのに。 「先生ぇ……」  と僕がまだ名前しか呼んでいないのに 「俺は嫌だからな!」  飛んできたのは、非協力的な先生の返事でした。 (ちっ。読まれている……)  目の前に人参作戦、遂行不可能。
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