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齟齬
(もうそろそろ3学期の期末テストも始まると言うのに、なんでこいつらは、まだ理科室にたむろっているのか……)
知己は頭を抱えていた。
(よーし、今日はとことん無視してやる! 教科書読んで明日の授業の準備だ)
理科室には例によって例のごとく、窓側の一番前の机に章と俊也が向かい合わせ、敦が誕生席的に座っている。多分、そこが理科室で一番日当たりのいい席。そこで喋り倒している。
その右斜め前方に教卓があった。知己はそこに座して、章達の様子を教科書越しに眺めた。
(なんだか、縁側で日向ぼっこしている年寄りのようだな……)
と少なからず思った。
今回の知己は、前回の反省を踏まえ、期末考査の問題は早々に作っておいた。だから、彼らを追い出す算段は必要ない。
だけど、君子危うきに近寄らず。敢えて関わりたくはない。
だから、とことん無視を決め込んだ。
そんな知己を、三人は別に気にもしていない。理科室の備品……まるで教室の一部のように見ているかのようだ。
日なたぼっこしている俊也が突然
「なあ、お前ら知ってたか?」
と、話を振った。
生真面目な敦が
「何を?」
と聞き返す。そこで俊也が、
「3学期って、期末テストしかない……」
と言い出した。
(何、今更そんなこと言ってんだ、こいつ?)
と知己は驚いて耳をディヅニー映画の小象みたいにして聞いていると、敦や章も
「今更だな。中学校の時から、そうだったじゃないか」
とか
「俊ちゃん、確か今、高2だよね。去年もそうだったでしょ?」
とか言っている。
すべてに「忘れていた」と答えた俊也の表情は、暗い。
その顔を見ていた知己の頭に
(え? なんだ? まさか……)
嫌な予感が過る。
「俊也は赤点必至か?」
という敦の問いに、思わず知己は教科書の奥でごくりと唾を飲み込んだ。
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