齟齬

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(いやいやいやいや、まさか、まさか)  今度は一回でも赤点取ったら、また強制イベントの補講の幕開けだ。 (そんなの夏休みだけで十分だろ?)  しかも今回は章の成績は学年1位だし、敦も十分及第点取っている。他の生徒だって、提出物も授業の途中の小テストも点数をしっかり取っているから赤点の心配はない状況だった。 (と、いうことは強制補講の対象は俊也一人……?)  まさか、わざと……じゃないよな?  しかも今回は3学期。一年のまとめ的テストだ。その強制補講後のテストでも、点数が取れないとなると俊也は単位を落とすということになり……つまりは留年である。 (さすがに俊也もそれは狙わないか)  章や敦と学年が違ってしまうのは、嫌だろう。しかも補講に一人で出るということは、補講後のテスト勉強も一人でしないといけない。  果たして、この勉強嫌いの男にそんなことができるだろうか。 (いや、できまい)  反語的に知己は自問自答をしていた。  留年生など出したくないのが本音だが、俊也ほどの勉強嫌いは特殊なケースと言えた。普段の小テストもさっぱりな成績。ここまで酷いパターンは近年まれに見る残念な逸材だといえよう。 (どんなに簡単な問題でも解けないかもしれない……)  教科書を握る手は汗ばみ、思わずワニみたいに教科書から目だけを覗かせて俊也達を改めて見た。 「俺だってな、中間と期末、二回チャンスあれば挽回できるんだ。それがたったの一回で俺の何が分かると言うんだ?」 (お前が進級できるかどうかが、分かるんだよ!)  思わずツッコミかけたが、聞き耳を立てているという立場をわきまえ、喉までせり上がった言葉をかろうじて飲み込んだ。  その後も俊也のトンデモナイ発言に 「おい」 「こら」 「ちょっと待て」  と、その度に知己は心の中でM-1グランプリもかくやの怒涛のツッコミを繰り返していた。 (もしかして……いや、もしかしなくても、俊也は本格的にやばい状況なのでは……?)  嫌な予感が現実となって、立ちはだかった。
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