齟齬

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 思わず知己は、章を見つめた。 (章! お前、学年一位だろ? その実力を見せて、俊也を引っ張り上げてくれ!)  知己だって科学者の端くれだ。  科学で証明されない超能力を否定はしないが、信じてはいない。  信じてはいないが、この時ばかりはテレパシーなるものを章に送れた気がした。  その証拠に、章が知己の考えが通じたかのように「やだ、メンドクサーイ」みたいな顔をしている。  かと思ったら次の瞬間には、ぱっと顔が輝いた。 (あれは、「いいこと思いついちゃった!」の顔だ)  知己は察した。  だけど、そういう時の章の「いいこと」が「いいこと」であった試しがない。  案の定 「先生ぇ」  と知己に話を振ってきた。  本能的に身の危険を感じた知己は「俺は嫌だからな!」と即座に断った。 (それに、お前「勉強は、人に教えると身に付く」だの「アウトプットの重要性」だの言ってただろ? 俊也と一緒に勉強するとお前も成績アップにつながる。 決して悪い話じゃない。 頼む! 頼むから俊也を何とか引っ張りあげてくれー!)  と再び章に念を送った。 (勉強の場所ならここを使ってもいいから、俊也を何とかしてやってくれ!)  すると章は(仕方ないなー……)みたいな顔をした後に、知己に指を1本立てて見せた。 (1……? 1……?)  章の指の意味する所を考えた。 (もしかしたら、「僕は1位だぞ! 任せろ」の意味か?)  それにしては、いまいちパッとしない表情だ。 (違うな……)  と思い返し、もう一度考えてみた。 (……あの顔、どこかで見たことある)  先日、初詣の時にカフェに行きたいとねだっていた時の顔だ。 (分かったぞ! 章は、この間のカフェで飲み損ねたキャラメルマキアートに未練があるんだ。それ、1杯で手を打ってやるという事だな?)  ……この際仕方ない。  知己は(やむをえまい……)と腹を括り (キャラメルマキアート1杯で俊也の留年回避なら、安いもんだ)  と、章に深く頷いて見せた。
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