吹山章の独白その2「勉強会」

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吹山章の独白その2「勉強会」

 いよいよ期末まで一週間を切りました。  俊ちゃんは相変わらず教科書見るだけで泣きそうな顔をしたり、ミラクルペンソー出したりと無駄な抵抗をしています。でも、あの日から早々に期末対策にとりかかったのが功を奏し、期日までにはなんとかなりそうです。 「理科は先生が面倒みてね」 「え?」 「え? じゃない。さすがに僕も全部は面倒みきれないよ。先生、専門なんだから、その辺はみてよ」 「他の生徒から、えこひいきとか問題にならないか?」 「生徒が質問しに来たと同じケースだと思えば? だったらテスト前でも先生は教えるでしょ?」 「そうか。なるほど。だったらOKだな」  先生が理科を教えると決まった途端、俊ちゃんがめっちゃ嬉しそうな顔してました。  僕は、ちょっとイラリ。 (くそ。誰の所為でこんなことになっていると思ってんだよ。にやけてないで、ちゃんと勉強しろよー!) 「残りを分担しよ」  気を取り直して言うと 「OK」  敦ちゃんはすこぶる協力的でした。 「国語と社会は僕がみるから、敦ちゃんは英語と数学を見てあげて」  こうして僕らの勉強会がスタートしました。 「今日は社会だね」  俊ちゃん用に作った期末までの勉強計画表を見ながら僕が言うと、先生は「じゃあ、俺の出番はないな」みたいな顔して教卓で本を読み始めました。先生がチアの格好で俊ちゃんを応援したら、絶対に頑張るのに。 「ラッキー。地理で各国の首都を聞かれる問題が出るみたいだよ」 「……社会科教師、俺達を幼稚園児だと思っているな」 「この際、幼稚園児レベルの問題で点数を稼ごう。俊ちゃん、もうこれは丸暗記しかない。でも、多分ニュースとかで聞いたことある名前だから、がんばって」 「おう!」  社会科教師が配った世界の首都の書かれた地図を僕は俊ちゃんに見せないように持って、問題を出した。 「日本の首都は?」  本当に社会科教師、僕らをなんだと思っているのだろう。少なくとも高2と思ってはいないんだろうな……と僕は思いました。 「東京!」 「正解。じゃあ、アメリカは?」 「ニューヨーク!」  ああ、もうそこから違う! 「ワシントンD.Cだよ」 「え? そうなのか」  何故、そこで敦ちゃんが食いつく? (本当、アウトプットって大事だな……)  僕は母の言葉を噛み締めた。思いがけず、敦ちゃんもアウトになる所でした。
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