吹山章の独白その2「勉強会」

4/4
前へ
/778ページ
次へ
「ここは私に任せて、知己は事務室へどうぞ」  という英担に 「ちょどいいや。社会の後で英語もみてもらおう」  ふっかけたけど 「All right!」  気軽にOKしやがったんです。やっぱり、この英担、むかつきます。 「あー、じゃあ、とりあえず行ってくる……」  ケソケソして出て行く先生を後目に、僕らは勉強を続けました。 「じゃあ、さっきの続きだよ! オーストラリアの首都は?」 「シドニー!」  と俊ちゃん。 「メルボルン!」  と敦ちゃん。 「違う! キャンベルだよ!」  僕が正解を告げると 「「うぇぇぇー」」  と悲し気に叫びました。  その横で、英担が(思ったよりもやばくない?)みたいな顔になっていました。英担は気軽にこの場を引き受けたようだけど、(先生はこの嫌な空気をずっと吸っていたんだからな。思い知るがいいーっ)と僕は思いました。 「次、カナダの首都は?」 「Oh! 私の生まれ故郷です。I came from Canada.」  そんな情報と中学レベルの英語、要らないよ。  英担無視して俊ちゃん達に答えるように、じろりと再び睨んだら 「ええっと、バンクーバー?」  すっかり自信なさそうに敦ちゃん。 「トロント!」  依然、なぜか自信満々に答える俊ちゃん。  英担に至っては、生まれ故郷の首都を答えてもらえず、二人のダメっぷりに「Noooooooooooooooo!」  打ちひしがれて、大袈裟に教卓に顔を伏せました。 「違う!」  当然、僕は苛立ちMAX。すると、これまでの不正解の連発に俊ちゃんが真っ暗な顔になり 「……俺、もう……オワタ(終わった)」  と泣きそうになって呟きました。 「正解! 須々木君、やればデキル!」  突然、教卓の英担が顔を上げて、俊ちゃんを褒めました。 「え? え? そうかな? 俺、デキル子?」  単純な俊ちゃんはそれで調子づいたみたいです。  僕は、俊ちゃんにほんのり灯ったやる気の光を消さぬよう 「そう、正解だよ。カナダの首都はオタワ」  こっそりと正解を教えました。 (答案に「オワタ」と書かれても困るしね)  大体、こんなもんです。何でもいいんです。暗記問題なんて適当に印象付けときゃ、さすがの俊ちゃんでも覚えるでしょ?   結果オーライということで 「俊ちゃんはやればできる子だから、やろう。ガンバロウ。そして、みんなで一緒に3年生になろう」  と励ましながら、勉強会を続け、期末考査を迎えたのでした。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加