知己を自由にしていい一日 1

2/2
前へ
/778ページ
次へ
「ちなみに教科は?」  と敦が聞くと 「理科だね」  章が答える。 「愛のなせる業かなぁ?」  揶揄うように章が言うと 「……そ、そうかも……」  俊也は照れ笑いを浮かべた。だが知己は 「あれだけ懇切丁寧に教えたのに、他の教科との違いはわずかに2点かよ……!」  努力の割に合わない点数の差に、門脇ばりに俊也を張り倒したくなっていた。 「と、いうことで……俊ちゃん、よく頑張りました! 進級おめでとうー!」  章が唱えると、その場の全員が「とりま、めでたい」というやっつけ感しかない拍手を俊也に送った。そんな拍手でも俊也は、まんざらでもなさそうだ。 「おめでとう、須々木君。次回は、英語でももう少し点数取ってくださいね」 「おう、先生! がんばってみるよ!」 「3年生では、普段から勉強しろよ」 「敦、世話になったなぁ! ありがとよ!」 「私は『暖簾に腕押し』の諺の意味が分かった気がしましたよ」 「とことん『馬の耳に念仏』でもあった勉強会だっな。……とにかく、もうあんな胃の痛くなるような事態は嫌だからな」 「分かっているよー!」  クロードと敦が次々と俊也に労いの声をかける中、章がそっと知己に「ふふふ」と含んだ笑いを見せた。 「先生……分かってるよね?」 「もちろんだ。これだろ?」  知己が指を1本立てる。  それを見て満足そうに章は頷き、 「約束の日時は、携帯で指定するね」  こっそりと敦達にバレぬよう囁いた。
/778ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加