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知己を自由にしていい一日 2
俊也の合格ギリギリクリアの次の土曜休日。
章が指定してきた場所は、10時にあのカフェだった。
「やはり、キャラメルマキアートに未練だったか……」
呟きながらそっと中を伺う。
どうやら章は、まだ来ていない。
あの初詣でのこともあり、職場も近いというので、なんとなく例の黒スーツ女史も探していたが居なかった。
将之ももちろん、居ない。
念のため、今朝、家で将之に確認したのだ。
「お前、今日、休み?」
「はい。先輩と一緒で休業土曜日です」
「いっぱい仕事あるとか言ってなかった?」
「そうです。僕らの仕事は基本、先輩達の繁忙期のその直後ですよ。先生たちが出してくれた書類を受けての仕事がメインですからね。でも、さすがに働きづめもよくないでしょ? 今日は先輩と一緒に休日にしました」
やたらと先輩と一緒を強調してくる。ウィズにこにこ笑顔。
将之の言いたいことは、知己にも伝わった。
「……悪いが、先約が入っている」
将之の期待の笑顔を曇らすのは忍びない。
だが、章との約束も致し方ないことなのだ。
「え? まだ第二土曜ですよ。家永さんとのおおっぴら浮気デーには一週早いじゃないですか? 第三土曜以外出かけたがらない先輩と、今日は一日ゴロゴロしたりダルダルしたりしようと思っていたのに」
案の定笑顔が崩れ、またもや悪意しかない言葉を浴びせられた。
(どうせ俺はインドア派だよ! 大体ゴロゴロダルダルしているさ!)
いい年して人見知りな知己は、職員室で過ごさずわざわざ特別教室棟の理科室で過ごしたがる。休日も出かけることは億劫だった。例外で家永に会う事は平気だ。理由は簡単。知己の事をよく知る家永とは映画観たり喫茶店でダルダルと過ごしたりと、人にあまり会わないデート(?)コースにしてくれるからだ。そんな知己は、将之に日頃の怠惰な生活を指摘されたようにしか思えなかった。
それもあって、将之には先約が入っているとは思えなかったのだ。
「で、お前……今日、どうすr……」
「不貞寝します!」
知己が言い終わらぬ内に断ち切るかのようにそう言うと、将之はベッドルームにUターン。
慌てて追いかけた知己が「ごめんってば、将之。今度一緒に出掛けよう……な」と何度ノックしても、鍵を閉められた部屋のドアに話しかけても
「もう寝るので、邪魔しないでください! 僕は今日とことんダルダルするんですぅー!」
布団被っているのだろう。拗ねたくぐもった声しか返ってこなかった。
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