知己を自由にしていい一日 2

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 カフェに入って何も注文せずに待つのは忍びないので、自分の分のコーヒーを注文し、章達を待つことにした。 (……この後で、将之になんか買って帰ろう)  ここに来る道中の和菓子屋に、「イチゴ大福」の張り紙が目についた。 (あれとあったかい緑茶でも淹れて、将之と仲直りしよう)  ただ、茶を淹れるのは将之にさせることになるが。  湯を沸かすことはOKでも、お茶淹れにOKは出ていない。緑茶なのに抹茶みたいなありえない濃いドロドロのお茶を出してから、知己には急須もNGになっている。  そんなことを考えてたら、カフェの入口に章が見えた。  章も知己に気付いたようだ。  グレーのチェックのズボンに、ラクダ色のダッフルコート。タータンチェックのマフラー。巻き方が女子高生っぽく後ろで愛らしい結び方をしているため、今日はいつもと違ってなんだか中性的な美少年になっていた。それが、自動ドアが開くのを待ちきれない勢いで、体を横にして滑り込むませると、小走りで知己の所にやってきた。 「もしかして、お待たせしました?」   と聞いてくる。周囲の目を引く愛らしい美少年が、黒タートルニットにジーンズの地味な服装だけど顔は精悍な美青年に声をかけるさまに、周囲がわずかにざわついた。 「いや、俺も来たとこ……だけど」 (なんだ、これ。デートの待ち合わせみたいな)  言った知己の方がなぜか照れた。 「僕もなんか飲みたいな」  マフラーとコートを脱ぎながら章が言うと (それが目的だっただろうに)  苦々しく思いながら「ん……」と知己は交通系ICカードを渡した。 「奢ってくれるんだ? ラッキー」  遠慮なくカードを受け取ると、章はカウンターに注文しに行った。 (ん……? なんか変だな)  章との会話にかすかな違和感を感じたが、答えが出る前に、章がキャラメルマキアートを手に知己のテーブルに戻ってきた。 「この間飲み損ねたから、やっぱりこれにしちゃった」  と知己にカードを返した。 「ああ、そう」  珍しく知己の中に湧いたわずかな違和感は、章の言葉にそのままナリを潜め、カードと共にしまわれてしまった。
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