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「僕は怪しい奴じゃないよ」
身長180㎝程の大男が、俊也、敦の目線に合わせ、心なしか前屈みに語りかけた。
帽子からのぞく髪の毛はふわふわの栗色。サングラスにマスクで隠しているが、かなりの美形だろう。そして、低い甘めの声。この声で優しく「ゴディ〇のチョコレート、買ってあげる」と昭和の誘拐定型文でも言われたら、例え令和の時代であっても日本語分かる女性なら誰もがついて行ってしまいそうだ。
だが、敦達はDK。
そう簡単に、この男の声に耳を貸さなかった。
「怪しい奴ほど怪しくないって言うんですよ。
怪しくないって言うのなら、まずはそちらから名乗ってください」
敦が強気の姿勢を見せ、俊也が凄んでいた。
すると呆気ない程に
「僕はライオ」
と男は名乗った。
「「は?」」
「彼の生活を、おはようからおやすみまで見つめるライオ」
『彼』と言って、親指で前方の二人を指さした。多分、知己の方だろう。名前は、どう聞いても偽名である。
(おはようからおやすみまで見つめる……って、なんか良いように言ってるけど、要はストーカー行為なんじゃ? 実は、危ないやつじゃないか?)
敦はかなり怪しんでいた。だのに
「頼れる男……、頼男さんか……」
と隣で俊也が分かったかのように頷いたので
「は?」
敦は素っ頓狂な声を出して俊也を見た。
「俺は俊也……痛っ!」
ライオの言葉を素直に信じた俊也が、じゃあ次は自分の番と名乗ったので、敦は本日二度目の小突きを食らわせた。
「察するに、八旗高校生と見たけど。違う?」
「そう……って、痛いーっ!」
三度目の小突きを食らわした敦は、もう俊也が居る限り、何を隠しても無駄だと諦めた。
「そういうライオさんは……?」
痛みを堪え肩を押さえながら俊也が訊いた。
「とある組織の者だ」
「とある組織?」
俊也がキラキラした目でライオを見た。明らかに(なんか、かっこいい!)な顔である。
「今日はちょっと彼の動向が気になってね。
もしかして、彼らは教師と生徒で、あるまじき行為をしようとしてないか? しかも先輩が攻め」
「「は?」」
途中までは分かったが最後の一言に馴染みがなくて、俊也と敦は同時に声を上げた。
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