知己を自由にしていい一日 3

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「しっ。気づかれてしまう」  ライオはマスクの上から唇に人差し指を当て、敦達を制した。  前方の二人は楽し気(?)に話しながらモールの奥に移動している。昼近くになって人出が増えた喧騒で、どうやら後ろの三人は気付かれていないようだ。 「声の大きさには気を付けようね」  二人に念を押すとライオが緩やかな笑顔で 「良かったら、君たちが知っていることを教えてくれる?」  と頼んだ。  人懐っこい笑顔に騙されそうになるが、敦はしたたかに 「いいよ。でも、あんたも聞いてただろうけど」  とわざわざ付け加えてみせた。 「なんだ、知ってたのか。でも一応、答え合わせってことで教えてよ」  敦は試したのだ。  可憐で非力そうな美少年が(実は、お前のことを知ってたぞ)と生意気な態度をとると、大抵の相手は怯むか逆に強硬的な態度に出る。ここで怯む方はまだいい。敦をただのカワイ子ちゃんだと見くびって腕力で済まそうとする人物は、到底信用できない。  だから、わざと悪態ついてみせたというのに、ライオの柔らかな笑顔は変わらなかった。  少しも変わらない柔和な態度に、敦は(少しは信用できる大人)と思ったようだ。 「さっき聞こえた話だと、章が先生に抱かれたがっている」  忌々し気に敦が言うと、ライオが黙って頷いた。自分も同じことを聞いたという意味だろう。 「いい年して抱っこが目的なんて……。お子様かよ」  呆れたように俊也が言うと 「俊也(おまえ)が、な」  敦が氷のような視線を向けた。 「え?」  言われた意味が分からずに、俊也が敦とライオに尋ねるかのように交互に見る。  敦は呆れて教えてくれそうにない。  それで仕方なくライオが答えた。 「……俊也君だったね。この場合の『抱く』って、『エッチする』という意味だよ」 「な、何? そうなのか? 俺はてっきりムギューの意味だと思ってた」 (道理でラノさんラブな俊也が、おとなしく話を聞いているだけだと思った)  見ている敦の横で、今頃になって 「章のやつ、俺の先生にふざけたことねだりやがって。俺を出し抜く気か? 俺が先に割られる約束してるのに!」  と腹を立てている。  ライオが「ん? 俺の……先生? 割られる?」と聞き返した。  突如嫌な予感がして、敦が 「あの人、担任なんです!」  と慌てて付け加えた。 「それより、答え合わせの続きです」
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