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知己を自由にしていい一日 4
三人がつけているとも知らずに、二人はショッピングモール内のドラッグストアに入った。
二人の入った後に、ゾロゾロと三人で入るのはさすがに目立つ。
気付かれるのを危ぶんだライオは
「俊也君、二人の動向伺ってきて。そして、敦君に電話で報告して」
と、頼んだ。
「なんで俺じゃないんです?」
自分が指名されないのを不満に思ったが、
「敦君。君は大人の知識があり過ぎて、時々冷静で居られずに感情のまま動いてしまう所があるだろう?」
「あ……、そ、そうですね」
これまで激昂に駆られ数度のパンチを放ってしまった敦は、自分の右腕を見つめた。
「ここはいい意味で純粋な俊也君に任せてみよう」
と言うのだ。
それで俊也だけが店に入り、それとなく二人に近付き動向を探ることになった。
「ちょうどリップなくなって困ってたんだ。あれって、どうしてすぐに転がっちゃうんだろうね」
「お前はJKか」
「DKだって、カサカサ唇は嫌ですよーだ」
時期的に多く揃えられた商品棚の一画で章はどれにしようか悩んだ。
(あんまり近くだとばれちゃうよな)
商品棚を隔てた後ろの通路で、俊也が聞き耳を立てた。
聞こえてきたのは、まず、知己の声。
「今、使っているので良くないか?」
「どうせ買うのなら、前のと違うのにしたくない? 同じの買って、前のが出てきた時悔しいもん」
「そうか? 俺はどうでもいい」
「潤い重視じゃないと意味ないよね。我慢できずに皮剥くと血が出るし、痛いし。やっぱりコレがなくっちゃ」
「決まったか?」
「うん、これにした。とぅるんとるんに潤うヤツ。これ使った僕を見たら先生も蕩けちゃうぞ」
「勝手に言ってろ」
二人がレジに向かうのを見て、すかさず俊也が店の外で待つ敦達に電話をかけた。
「俊也です。オーバー?」
すっかりスパイごっこに興じている俊也だが、普通「オーバー(=以上)」というと「報告終わり」になる。意味が分からずに、雰囲気だけで使っている。
敦の携帯にイヤホンを付け、片方を三つ編み女子敦の耳に、もう片方をちょっと昔の刑事風な男の耳に挿して、カップル聞き状態で報告を受けた。
「二人、ドラッグストアにて何かを購入。買ったものは分かりませんが、『潤い』がどうとか『皮を剥くと血が出る』とか『コレがないと痛い』とか『これを使ったら先生も蕩けちゃう』とか言っていたぞ、オーバー」
(……なんというアダルティな話!)
敦とライオは顔を見合わせた。
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