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「ねえ。お昼は、駅前高層ホテルのレストランに行こうよ」
「なんでだよ、そこらでいいじゃないか。というか、俺、もう帰りたい」
「ダメ。まだ、何にもしてくれてないじゃん」
「何もする気ねえよ」
付かず離れずして俊也が後を追っているとも知らず、二人は移動していた。
「僕は、あのホテルの最上階レストランに行きたいな。そこから眺めて『はっはっはー、人がゴミのようだー』って言いながら食事するのが最高。昼のランチはリーズナブルだし。ね? 行こう」
「それ、あんまりいい趣味じゃねえな」
「そう? でも僕、心理的にも物理的にもマウントポジション取るの好きなんだよね」
「全く威張れん」
「俊也です、オーバー?」
オーバーの誤用再びだが、敦とライオはそれどころではない精神状態で俊也の報告を固唾を飲んで待っていた。
「あんまり近付くとバレそうで。俺が聞こえた分では、なんか章が『マウントポジションが好き』と言ってる。後、二人はホテルに行こうって話になってる」
「「ホテルぅ?!」」
決定的な言葉に、二人は驚愕の声を上げた。
「章君が『抱かれたい』と言い、ローション購入の末、マウントが好きと主張。つまり騎乗位で亀頭撫でられるのを愉しもうっていうことか。あんな顔して、なかなかの年下誘い受けテクニシャンめ」
「うぅ。処女喪失だというのに、シチュがあまりにも上級者。でも、あいつならやりそう」
「んー? 騎乗位はかつかつ分かるけど、年下誘い受け? 処女喪失? 初めてなら、章は処女じゃなく童貞だろ?」
もはやライオと敦の言語がさっぱり分からない。だが、
(きっと俺の現国の成績が悪い所為だろう)
と、俊也はさほど気にはしなかった。
ほどなくして、
「おおおおお、俺は許さんぞぉ!」
電話口の向こうでプチパニックに陥った敦の声が聞こえた。どうやら先ほど同様、知己の腰に跨がり、亀頭撫でられて悦ぶ章の姿をうっかり想像してしまったようだ。
「なぜ、ここで敦君の許可が要るのかは分からないんだけど」
「それ、深く考えなくていいと思うよ。
……あ!」
突然の俊也の声に、二人は現実に戻ってきた。
「何?!」
「俊也君、応答せよ!」
「オーバー? オーバー?」
しつこく繰り返す俊也の「オーバー?」とは、この場合「もしもし」の意味だろう。
「目指すホテルが分かりました! 二人はこの先の駅前ホテルにしけこむようです、おーばー?」
適当に知っている言葉を羅列しているが、妙にマッチした俊也の報告だった。
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