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「最初に言っておきます」
ホテル最上階レストラン。
本日のランチ税込み1760円を5人分頼むと、将之が口を開いた。
「なんだ?」
「暴力禁止」
6人席を5人で使う。窓際のソファに知己と章。その向かいの椅子に、俊也、敦、一番知己から遠い位置に将之が座った。
(名付けて、DKの壁)
座席の位置からいっても、知己にシバかれるのを恐れての位置だと思われた。
知己は(小賢しい)と思いながら
「そんなの、お前の返答次第だろ……」
不愉快そうに答えたが、言い終わらぬ前に、
「文明国家において、至極当たり前なことだろう。何を言っているのか分からないな。そんな粗暴な奴は蓮様以外いない」
敦が口を挟んだ。
「何? 敦君。門脇君をディスってんの?」
将之が訊くと
「逆。リスペクトしてんの」
知己が答えた。
「ライオ……じゃなかった、将之さんは蓮様とも知り合いか」
と俊也はなぜか感心していた。
「敦ちゃんは現在進行形で複雑なお年頃だからね」
と言うと、章はくるりと真後ろの大きな窓ガラスに向かい「わー、人がごみのようだー」と嬉しそうに階下を覗き込んだ。
前菜のサラダが運ばれた所で、
「……で、説明してくれるな?」
ホテルおススメドレッシングをかけながら知己が訊いた。
「出不精の先輩が怪しいお出かけするから、気になって尾行しました。以上」
異常にあっさりと、そして奇しくも正しい「オーバー」の使い方で将之は説明した。
「先輩?」
聞きつけた敦に
「こいつ、俺の高校時代の後輩なんだ」
と知己が言った。
「偽名だろうとは思っていたが」
敦が一瞥すると、将之は
「ごめんね。悪気はなかったんだ」
と、にっこり微笑んだ。
「……」
あの敦が口を噤んだ。それどころか
「まあ、名前に意味はないしな」
と将之の行為を庇うような言い方もする。
俊也は、敦が許すのならそれでいいというスタンスだ。多分、深く考えてはいない。
「珍しいね。敦ちゃんが懐くなんて」
章が、俊也の苦手なサラダのミニトマトを引き取りながら言うと、
「だな」
と俊也も頷いていた。
(こいつ。卿子さんばかりか敦までタラシこんだか)
チラリと将之を見ると、ご機嫌にサラダを食べ終わった所だ。
「でも、絶対にそれだけじゃないだろう?」
と知己が追及すると
「それだけですよ。やだなぁ」
あはは……と将之は乾いた笑いを浮かべた。
「だったら、『暴力禁止』と前置きしないと思うんだが?」
ギロリと知己が睨むと
「語るに落ちた」
章が楽しそうに合いの手を入れた。
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