知己を自由にしていい一日 5

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 そこに「季節のメニュー・鰤大根春菊バターソース添えになります」と次の料理が運ばれてきた。  一瞬静まった後に、 「……ハグ?」  戸惑い気味に敦が聞き返すと 「うん。ハグ」  と章。 「ハグっていうと、つまり『むぎゅー』?」  と聞き返す俊也に 「うん。むぎゅー」  と再び章が答えた。 「いや、お前『抱いてもらう』って言ったぞ」 (それで俺は咽たんだ)  と知己が言うと 「え? まじ? じゃあ、うっかり言い間違えたのかも。『抱きしめてもらう』って意味だったんだ」  てへぺろっと章が無邪気に舌を出した。 「でも、でも。間違っても亀頭撫でてほしいなんて凄いこと言ってないのに。僕の純粋なイメージぶち壊さないでほしいなぁ!」  困惑気味に章は言うが 「安心しろ。それ、最初からない」  と知己は突っ込んだ。 「え、なかったの?」  前理科担を剥いて、脅して、異動にまでおいやってて、今更純粋なイメージなどない。 「じゃあ、誰が亀頭なんて卑猥なことを?」 「残念ながら、俺に心当たりがある……」  知己がすいっと将之に視線を向けると、悲しいくらいに敦と俊也も同じ方向を向いていた。 「言っとくけど、文明国家において暴力は厳禁ですからね」  すまして将之が洋風に盛り付けられたおしゃれな鰤大根を、ナイフとフォークで切り分け上品に口に運ぶ。 「あ! じゃあ、もしかしてドラッグストアでローションも買ってないのか?」  と訊く俊也の「ローション」発言に、残念ながら知己は今度こそ咽た。  隣の知己を心配そうに覗き込み、水を勧めた後で章は 「買ったのはリップだよ。無いと地味に困るから。使っていたのがなくなっちゃって荒れて唇の皮が気になってて。無理に剥いたら痛いし。新しいのを買ったんだ。めっちゃメントール効いたやつ」  買ったばかりのリップを俊也に見せた。確かにキャップを取ると爽やかな香りがする。 「まじ、スースーするな」 「これで爽やかな魅惑のとぅるんとるんの蕩ける唇になるんだ」 「……ん?」  絶品鰤大根に舌鼓を打っていた敦と将之の手が止まった。  皮を剥く?  無いと痛い?  蕩ける?  このワードに、敦と将之がまたもや顔を見合わせた。そして、二人は(もしかして、人選ミスってた?)と気付くのだった。 「しかし、亀頭にメントールとは……。それはそれで高度なプr……」 「待て、将之。こいつらこれでも高校生だから」  咽ながら知己がストップをかけた。 「あ……失礼。何でもないよ、君達」  将之は爽やかに笑顔で誤魔化した。
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