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そこに「季節のメニュー・鰤大根春菊バターソース添えになります」と次の料理が運ばれてきた。
一瞬静まった後に、
「……ハグ?」
戸惑い気味に敦が聞き返すと
「うん。ハグ」
と章。
「ハグっていうと、つまり『むぎゅー』?」
と聞き返す俊也に
「うん。むぎゅー」
と再び章が答えた。
「いや、お前『抱いてもらう』って言ったぞ」
(それで俺は咽たんだ)
と知己が言うと
「え? まじ? じゃあ、うっかり言い間違えたのかも。『抱きしめてもらう』って意味だったんだ」
てへぺろっと章が無邪気に舌を出した。
「でも、でも。間違っても亀頭撫でてほしいなんて凄いこと言ってないのに。僕の純粋なイメージぶち壊さないでほしいなぁ!」
困惑気味に章は言うが
「安心しろ。それ、最初からない」
と知己は突っ込んだ。
「え、なかったの?」
前理科担を剥いて、脅して、異動にまでおいやってて、今更純粋なイメージなどない。
「じゃあ、誰が亀頭なんて卑猥なことを?」
「残念ながら、俺に心当たりがある……」
知己がすいっと将之に視線を向けると、悲しいくらいに敦と俊也も同じ方向を向いていた。
「言っとくけど、文明国家において暴力は厳禁ですからね」
すまして将之が洋風に盛り付けられたおしゃれな鰤大根を、ナイフとフォークで切り分け上品に口に運ぶ。
「あ! じゃあ、もしかしてドラッグストアでローションも買ってないのか?」
と訊く俊也の「ローション」発言に、残念ながら知己は今度こそ咽た。
隣の知己を心配そうに覗き込み、水を勧めた後で章は
「買ったのはリップだよ。無いと地味に困るから。使っていたのがなくなっちゃって荒れて唇の皮が気になってて。無理に剥いたら痛いし。新しいのを買ったんだ。めっちゃメントール効いたやつ」
買ったばかりのリップを俊也に見せた。確かにキャップを取ると爽やかな香りがする。
「まじ、スースーするな」
「これで爽やかな魅惑のとぅるんとるんの蕩ける唇になるんだ」
「……ん?」
絶品鰤大根に舌鼓を打っていた敦と将之の手が止まった。
皮を剥く?
無いと痛い?
蕩ける?
このワードに、敦と将之がまたもや顔を見合わせた。そして、二人は(もしかして、人選ミスってた?)と気付くのだった。
「しかし、亀頭にメントールとは……。それはそれで高度なプr……」
「待て、将之。こいつらこれでも高校生だから」
咽ながら知己がストップをかけた。
「あ……失礼。何でもないよ、君達」
将之は爽やかに笑顔で誤魔化した。
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