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「こちら、季節のシャーベットとドリンクです」
やがて最後のランチメニューが運ばれた。
「おい、将之……」
美味しいはずのホテルのランチがちっとも美味しく感じられなかった知己は、忌々し気に将之を見た。
「もう僕には聞かないって言ったくせに」
「お前、変に言葉尻取るなよ。大体、拗ねていられる立場じゃねえだろ」
「僕は悪くないです。悪いのは先輩です」
「じゃあ聞くけど」
「何です?」
「お前は、初詣でこいつらの存在を知ってたよな? 俺の生徒だと知ってて利用したんだよな?」
「……」
将之は答えなかった。
知己がもっとも納得できないのはDK三人の誰一人として将之を警戒せず、むしろ親戚のお兄さんのようにあっさりと受け入れている所にある。
(俺のことは毛虫のように嫌ってたくせに……!)
知己は敦達に向き直った。
「お前らも何を言われたのかしらないけど、知らないお兄さんについて行っちゃいけませんって習わなかったか?」
「ここで、まさかの小学校の指導」
章が笑った。
さっきから食事とツッコミを楽しんでいる章の動向を、知己は目の端に入れつつ
(初詣といえば、確かこいつも……)
と思い出していた。
章だけは「カフェにいた教育委員会の人だよ(※)」と将之のことを知っていた。
(ノーガードだったから敦と俊也は手玉に取られたんだな)
何も知らない二人を利用したな、と将之を睨む。
しばらくして敦が
「だって……ライオさんがあまりにもいろいろと物知りで、すごく頼れる人だと思ったもんだから」
とぽそりと語った。
「大人嫌いの敦がここまで懐くし、イケメンだし、優しそうだし。悪い人とは思えなくて」
続いて俊也も語る。
「こいつは、そういう奴なの」
「そういう奴とは?」
章の問いに
「見た目だけは優しそう」
知己は即答した。
「見た目だけ」
思わず笑ってしまった章に構わず、知己は敦と俊也にこんこんと話した。
「それに、怪しい人は怪しい格好なんかしてないんだ。悪い人ほどいい人そうな振りして近付いてくるんだぞ」
なんだか小学校の先生になったような気分だ。
「将之さん、そうなの?」
敦が潤んだ目で見上げると
「いや。僕の場合は例外だよ。君たちの人を見る目は、どこまでも正しかったと僕は思うね」
まったく悪びれない将之だった。
※章だけは、知己がカフェに入りたがらない本当の理由を知っていた?
https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=349
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