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「え? 敦ちゃん?」
章が思わず呟いた。
敦のプライドの高さを知っている。大人に利用されて一番怒っていると思っていたからだ。
(あの、敦が……?)
神様、仏様、敦様の敦が、俺にものを頼むなんて……。
驚く知己に章も
(もう、許してあげようよ)
みたいにアイコンタクトを送る。
今度は、きっと読み間違ってない。
「……分かった」
知己は不承不承、返事をした。
今朝、不貞寝決め込んだ悲しい男の背中を思い出した。
(そうだな。将之も本当はこの時期忙しいって言ってたのに今日は仕事をいれないで、俺と一緒に居たいって言ってたし……)
残念ながら、今の将之にはそれが微塵も感じられないが。
「みんな……」
デザートを食べ終わった章が知己の言葉に続いた。
「18禁な心配はしないで大丈夫だよ。僕は、ただ敦ちゃんみたいに先生にハグされたり、頭撫でられたりしたいだけなんだ。だから、この後のデートは邪魔しないで、さっさと家に帰ってね?」
笑顔で「帰れ」と言ってのけた。
「はあ? 章、これ、まだ続ける気?」
「抜け駆け禁止! 飯食ったら、もうお開きにしようぜ」
敦と俊也が口々に言う。
その向かいの知己が俊也達とほぼ同時に
「あっ……!」
慌てて将之を見た。
将之は
「ほう……。先輩は敦君にハグして、頭を撫でていたと?」
半目になって、食後のコーヒーを飲み干して頷いていた。
「章君、そのメントール成分多そうなリップの銘柄教えて」
「いいけど、どうして?」
「良さそうだから、僕も使いたい」
と将之が言った。
「おい?」
怪訝な顔で知己が訊くと
「……それで、許してあげます」
すまして将之が答えた。
「待て。なぜ俺が許されるんだ? また、いつ立場逆転した?」
と聞いたが、将之はそれ以上答えなかった。
ホテルからの帰り道、将之がドラッグストアと
「おやつにイチゴ大福、買って帰りましょう!」
と和菓子屋に寄る以外、まっすぐ家路を目指した。
DK三人は、「結局、ライオさんって何者だったのかな?」という疑問を口にして、渋る章を連れて各々帰っていった。
―知己を自由にしていい一日・了―
次の頁から、ちょっとマニアっぽい★更新になりますので、苦手な方はご注意ください。
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