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「おやおや、これからどんな目に遭わされるか知らないで……可愛いもんですね」
萎えた知己のものを見下ろすと、次に将之は自分のシルクパジャマのポケットから取り出したものを知己に見せた。
「これ、なーんだ?」
「……お前っ!?」
章の買ったものと同じメントール成分の効いたリップスティックだった。
それを知己の目の前にちらつかせる。
「まさか……」
「はい、そのまさかですー」
リップスティックのキャップを外すと、章が俊也にしてみせたように知己の顔の前に持って行き、匂いを嗅がせた。
「すっごい爽やかですね」
そのままリップを知己の唇に押し当てる。
爽やかな香りとしっとりとした感触が伝わった。
「やっ……!」
将之のやり方に腹が立ち、思わず顔を背けるとそれがわずかに頬に付着した。頬にすっと冷涼感が漂う。
「あー。かっわいくないなー」
と言いながら、将之は想定内の知己の動きに余裕の微笑みを浮かべ、今度はそのリップを自分の唇に塗った。
「……っ!」
知己は、なぜか背筋がゾクゾクするのを覚える。
「さて、問題です。このリップ、次はどこに塗るでしょう?」
「や、やめっ! ばか!」
ジタバタと足をばたつかせるが、位置が悪くて将之には当たらない。
将之は体をずらすと
「やめさせたかったら、正直に答えてください」
怯えたように力なく萎えているそれに手を添えて、強引に上を向かせた。
「本命はおしゃべり君だと思わせといて、その実、既にメガネ君にハグとなでなで。僕というものがありながら、どうしてそんなことしたんですか?」
「やっ! 変態! やめろー!」
リップを近づけられるだけで分かる。メントール成分がピリピリと先端を刺激した。
「お前はボディシートで顔拭いたことないのかー?」
恐怖で思わず叫んだ。
「はあ? なんですか、それ」
将之がピタリと手をとめる。
「……っ、めちゃくちゃ目に沁みて痛いんだぞ!」
「注意書きに書いてありますよね? 粘膜を拭くのはダメって。
もしかして、やっちゃったんですか?」
「……夏に汗かいた時に、うっかり顔拭いたんだ」
「はあ。今は先輩のそんなドジ話を訊きたいんじゃないんですけど」
更に近づけられる。
「っ! ……やめっ、将之ー!」
「あまり暴れない方がいいですよ。今、ちょっとでも動くとくっつく位置ですから」
少し離れていても感じるピリピリとした痛み。
直に付けられると、どれほどのものか。
想像にかたくない。
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