242人が本棚に入れています
本棚に追加
/778ページ
ゲーム 開始 2
「なあ、先生。蓮様、今日も来ないの?」
章が実験用のつやつやと黒光りする机に突っ伏しながら、ぼそぼそと不平をもらした。
「さあ? 知らん」
知己が、ガスバーナーやフラスコなどの備品をコンテナに移し替えながら答える。
あれから吹山章は
「先生が、来てもいいって言っただろ?」
と言いながら、特別教室棟にたむろする人から理科室に通う人になった。
目当ては門脇蓮。あれだけ殴られたにも関わらず、むしろ「理不尽さに震える」と、逆に崇拝度は増したらしい。
それと同じように知己に対しても態度は軟化していた。
あの時知己の言った当てずっぽうの「代議士の子」「寂しい」「家に帰ってもすることない」は全部当たりで、理科室に通い始めてすぐに章から
「僕、元代議士の子。ずうっと前から、周りから『吹山先生の子』って言われるの嫌だったんだ」
とカミングアウト。
吹山の親は、元代議士。今は政治コメンテーターとして、メディアによく顔を出している。
「親も周りも、代議士の子は品行方正で学力優秀でなくてはならないっていうんで、ずっと『優等生』であり続けるのを強いられてきた。正直、僕はそんな器じゃなかったんだけど、いたいけな子供だった僕は親や周囲の期待に応えようと必死だった。でも、どこか無理をして生きてきて、ある日突然気付いたんだ。こんな『優等生』であり続ける必要なんかないんじゃないかって。周りの大人たちが言っていることのすべてが正しいことじゃないって、気付いた。本当に正しいかどうかは、自分が考えて決めていいことだと思ったんだ」
そんなことを語りながら、知己が片付けていた実験用器具をコンテナごと取り上げ、「暇だから」と丁寧に並べていく。
「この学校を選んだら親はめちゃくちゃ反対したよ。こんな学校に行かせる為に塾に通わせたんじゃないって。でも『ここならトップ取れる』って言ったら納得しちゃって。おかしかったなぁ。ここに入って、親に一矢報いた感じ。ま、親は気付いてないけどね」
ペロっと舌を出した顔は、茶目っ気たっぷりの、ちょっといたずらしちゃったゴメンナサイな愛らしい少年。確かにこの子の親ならテレビ映えもするのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!