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「バレンタインデーだから、会いにきてやったぜー!」
(バレンタインだから会いたくなかったんだ)
「蓮様ー!」
「蓮様ー!」
「蓮様ー!」
またもや某歌劇団の舞台と化した理科室に、男子高校生の声がこだまする。
「今年は堂々と渡せるな! 俺の愛を受け取れ」
ずいっと手のひらサイズの本命チョコを押し付けられた。
章を断って、門脇のを貰う訳にいかない。
「いらない」
「そう、言わずに。もう俺達、生徒と先生の関係じゃないんだぜ」
まるで生徒と教師でなければ受け取るとでも言いたそうだ。
「いらない」
なんとかの一つ覚え状態で断る。
「相変わらずお堅いんだな」
「普通の対応だ」
ツンツンした知己の態度に
「やー、懐かしい。思い出すな」
門脇がまったく取り合わずに笑顔で語る。
「こうして頑固に受け取らない先生に、校則『菓子類持ち込み禁止。見つけたら没収』を利用し、『没収』という名のもとに俺のチョコを受け取ってもらった日のことを」
「さすが蓮様、こっそくー!」
「さすが蓮様、ぼうじゃくー!」
「さすが蓮様、……ーっ!」
俊也だけは、言葉が続かなかったようだ。
「もう生徒と教師でもないから、校則も無関係だ。没収もしない。今年の俺は受け取らない」
と強気に出た知己に
「では身体検査しまーす!」
門脇は知己を万歳の形に固定した。
「?」
その後に門脇は手際よく空港の警備員のようにパンパンと軽く知己の体を叩いた。
「ん?」
門脇がピタリと動きを停めた。
「あ、それは……」
知己の腰より下に手応えを感じる。
「ここになんだか、硬いものが」
「あっ、ごめ……門脇、それ……ちょっと。触られたらまずい……」
焦る知己が言葉を濁していたが、なぜか敦だけは赤くなっていた。
「なんだよ、先生。昼間っから、こんな所に」
知己の制止を聞かず門脇が白衣の腰ポケットに手を遠慮なくつっこんだ。
思わず、門脇の手を押さえる。
「あ、ダメ……っ!」
「おいおい、ダメなのは先生の方じゃないかー」
突っ込まれた勢いでポケットの位置がずれる。
知己のまさにその部分で繰り広げられる攻防に、敦は顔を手で覆い、指を開けて固唾を飲んで様子を見ていた。そこには、将之に染め上げられたピンク脳がいまだに残っていると思われた。
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