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「やめろっ!」
「やめてもいいのか? 探られている方がいいんじゃね? こんなものを、こいつらの前でお披露目されたら困るのは先生の方だろ? ほらほら。正直になりなよ」
「やめっ。んっ! ちょ、本当にまずいって、門脇!」
「うはは。なかなかに可愛いものをお持ちで」
「まじ、馬鹿、やめろっ」
「触った感触だと、これはアレだな。硬くて、色は黒。いや、ピンクもありうるな」
「や……っ、違うって!」
「違わないだろー? 大人な黒もいいけど、可愛いピンクもそそるよな? 先生のはどっちだ?」
「もう、やめ……っ、あーっ……!」
敦は思わず、理科室の窓の外を眺めた。
外の寒椿の花がポロリと落ちたような気がしたからだ。
再び理科室内に目を戻すと、高校生時代と変わらぬ門脇のマイペースで非道な振舞に、知己が身も心もボロボロになって、へなへなとその場に座り込んでいた。
「……っ」
美しい柳眉を寄せた切なげな表情で知己が見上げると、門脇は
「これ、なーんだ?」
と「討ち取ったりー」な顔で白衣のポケットから抜き取ったそれ=卿子のチョコレートを高く掲げた。
もはや抗う気力など、どこにも残っていない。
そんな知己の白衣のポケットにギリ収まる本命チョコを、門脇がぐいぐいと強引に押し込むと
「じゃ、またな!」
と満足そうに立ち去った。
(こ、これは……なんてえっちなプレiなんだ……)
何故か敦が息を潜めて真っ赤になりつつ、そのやり取りを見ていた。
いまだに知己は腰が立たずに座り込んでいる。
精神的に、よほど疲れたのだろう。
すると章が立ち上がり、いまだ呆然としている知己に先ほど断られたチョコレートをにっこり微笑んで差し出した。
「う……」
泣きそうになっている知己の手の上にチョコを置く。すると、俊也もやってきて
「じゃ、俺も」
と章のチョコの上に、自分のチョコを重ねた。
そんなバレンタインから二週間が過ぎようとしていた。
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