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「もう来てるかな?」
「式開始20分前だもん。来てるよ」
管理棟には西階段と東階段がある。
章達はわざわざ遠くの東階段まで回り込んだ。東階段だと、職員室の前を通らずに校長室の脇に出ることができる。
「どうせいつもの喪服黒スーツだから、校長室覗いたら居るかどうかなんてすぐに分かるはず」
「居たらどうする?」
「当然。職員室に戻った先生と接触させない。それだけだ」
職員室と校長室は隣り合っている。
知己が彼女に、もしくは彼女が知己に会おうと思えば簡単に会える状況だ。
「あの女、ラノさんファンだからな。先生に会いに行くかもしれないだろ? ……って、敦ちゃん。なんでついてきたの?」
教室を抜け出すときには居なかった敦が、いつの間にか章達の後を追ってきていた。
「こんな面白そうなこと、俺抜きでするな」
「これ、面白いか?」
俊也が訊くと
「とりま、あの悪徳教師の小綺麗ですました顔が、好きな女を前に取り乱す姿は面白そうだ」
敦がニヤリと笑う。
「絶対にそんなのヤダ」
章は心底嫌そうに顔を顰めた。
「なんでだよ?」
「先生が僕以外に取り乱されるなんて嫌だ」
「妙な独占欲を発揮するんじゃねえ」
俊也が章に突っ込んだ。
「ところで、どうやって会わせないようにするんだ?」
校長室の脇・東階段に到達した所で、俊也が訊いた。
「そこまでは、まだ考えてない」
章が珍しく余裕なさげに答えると
「見切り発車かよ」
俊也が呆れていた。
章のことだ。何か策あってのことと勝手に期待していた。
「俺としては、会わせて是非ともあわあわして欲しいんだが」
敦だけは面白がっている。
「それは絶対ヤダってば!」
俊也がちらりと時計を見た。
「とりあえず覗くだけ覗くか? 式開始の時間も迫っているし、そろそろ教室帰らないと俺達が抜け出したの、先生にバレる」
「そうだね、喪女が来ているかどうかの確認だけでも……」
無策の三人が、やっと方針決まった時だった。
「では、会場までご案内します」
と校長室のドアがカラリと開き、校長が先頭に立って来賓を導こうとしていた。
(チャンス!)
と三人は階段脇から顔を覗かせた。
「……喪女、居ねーな」
「その代わり、見た顔が居たね」
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