卒業式の再会 2

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 三人は、しばし見とれたように呆然と来賓ご一行の後ろ姿を見送っていた。 「……なんで?」 「なんで、と僕に聞かれても……」  敦と章がかなり困惑していた。 「幻覚か? 悪徳教師の非道なまでの卒業式の猛特訓の所為か?」 「どんだけ凄い卒業式の練習してんだよ? うちの高校のゆっるーい式練で何を言ってんの?」  章の言う通り、八旗高校では緩い練習しかしていない。  というか、教師から 「『在校生』と『一同』と言われた時だけ話を聞け。『卒業生』と言われたら聞かなくていい」 「卒業の歌も歌詞が分からなかったら、口パクして誤魔化せ」 「校歌だけは体育館の前面に歌詞が掲示されているから、頑張って歌え」  程度しか言われていない。  あまりたくさんの情報を入れたら、頭がパンクする生徒が多いからだ。  そんな38度のぬるま湯練習で幻覚見るほど、体はともかく敦のメンタルはではない。  軽くパニクっている章達の横で 「……なんで、ここにライオさんが居るんだ?」  やっと俊也が口を開いた。  黒スーツに身を包んだ将之が、他の来賓と同じように校長の後について歩く姿がまるでスローモーションのように見えた。  突然の居るはずのない場所に現れた将之の姿に、幻でも見たかのような感覚に襲われた。  しかも長身に正装の将之。他の来賓も同じような黒い喪服のようないでたちなのに、なぜか彼だけ黒衣の輝きが違って見えた。将之が歩くとまるで光がこぼれるような、妙な王子様感がある。 「すげえな。ライオさんは、何を着てもかっこいい」  ぼそりと俊也が言うと、それを皮切りに章と敦も現実に戻ってきた。 「ライオさんは男だから、喪女(もじょ)じゃねえ。言うなら喪……、喪男(もだん)だな」  敦が独り言のように言うと 「モダン……!」  章が頷いた。  本来ならディスる言葉も、将之にあっては誉め言葉に転じてしまうようだ。 「幸い喪女は居なかったけど、これはもう何が何でも先生に会わせるわけにいかない!」  章が語気を強めて言うと 「なんでだ?」  と俊也が訊いた。
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