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「だって、先生は蓮様という人がありながら、喪女も好き。事務の先生も好き。英担とも仲良し。その上、敦ちゃんにも手を出す男女問わず超ライトなお尻の持ち主」
「おい!? 俺は手など出されていない!」
慌てて否定する敦を無視して、
「お尻が超ライトな先生が、あんなキラッキラな人見たら即落ちだろ?」
某アパレルメーカーダウンジャケットの謳い文句的に章は言い切った。
章の辞書に「忖度」という言葉はないが、パニックが過ぎての謎言語になっていた。その上、もはや肝心の「何故、将之がここに居るのか?」問題がすっかり抜け落ちている。
「……おい、何の話だ?」
不意に、三人の居る東階段の下の方から声が聞こえた。
絶妙なタイミングでそこに居合わせてしまった知己は、章の発言にこめかみをピク付かせている。
「あ、尻軽教師!」
敦が指をさして罵倒する。せっかく本人の名前を伏せてた章の発言が台無しだ。とはいえ、章は隠す気も知己への配慮もなかったが。
「やっぱり俺の話だったか」
知己はうんざりしつつ、一番近くにいた敦の手を掴んだ。そのまま引っ張りながら体育館へと歩き出した。
「お前ら、HRで俺の話を聞いてなかったな」
知己は来賓よりも前に体育館に入った。その時にすぐに在校生席に敦達が居ないことに気付き、急いで探しに出かけた。
一番近いのは西階段だが、それでは来賓一行と鉢合わせてしまう。
生徒が抜け出した醜聞を来賓に悟られるわけにいかない。知己は、わざわざ遠回りして東階段を使った。そこで、運よく三人を見つけることができたのだ。
「在校生は既に体育館に入っている時間だろ? 一体こんな所で何してたんだ?」
道すがらブツブツと話す知己に答えず
「それよりもこの手を離せ!」
敦はすこぶる嫌がった。
「離したら、また逃げるだろ?」
知己の予想通り、敦を連れて行くと
「いいなぁ。僕も手を繋いでほしーい」
「俺もー」
章と俊也は、わらわらとついてきた。
(誰も俺の話を聞いてないな……)
今更ながら、知己は「馬の耳に念仏」の諺の意味を思い知るのだった。
「ふざけてないで急げ。式が始まる」
時刻は9時25分を指していた。
式の開始まで、後、5分。
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